■第57号(2018.4発行) 特集:日本人が森に学ぶこと。

流木災害
九州北部豪雨、その被害と今後

九州大学大学院農学研究院 教授 久保田 哲也(談)


1.経験したことのないような豪雨。
2.「過去最大級の流木災害」が起きた。
3.森林管理が原因だったのか。
4.根の張り方の問題ではない。
5.間伐の遅れでもない。
6.森林の「量」をコントロールする。
7.広葉樹を植える意味と効果。
8.流れ出た木をどうするのか。
9.豪雨がある前提での対策を。



2017年7月に起こった九州北部豪雨。わずか十数時間のうちに1カ月の平均雨量を超える雨が降り、死者・行方不明者41人、被災家屋900棟以上など、多大な犠牲を出しました。土砂崩れに伴って、大量の流木が発生したことも大きく報道されました。今回は、近年多発する大雨による水害と、森林との関係を考えます。

■1.経験したことのないような豪雨。
2017年7月5日、朝から降り始めた雨は午後になって激しさを増し、福岡県と大分県を中心に、記録的な豪雨となりました。最大日雨量は800mm以上、ピーク時の1時間雨量は140mmを超えました。気象庁が設けた「雨の強さと降り方」の基準では、最も強い区分が「80mm/h以上」であり、「猛烈な雨」「息苦しくなるような圧迫感がある。恐怖を感ずる」とありますから、このときの尋常ではない雨量が想像できるのではないかと思います。
この雨が山間地での崩壊(土砂崩れ)や川の氾濫を起こしたこと、そして大量の流木が発生したことは広く報道された通りです。林地被害は福岡県内だけで約1000カ所にものぼりました。九州大学で結成した九大災害調査・復旧・復興支援団は発災直後から現地調査を続けていますが、この災害の状況は過去にも例のないものでした。
山の中へ入ると、谷という谷が浸食されていました。ゆるやかな谷もV字谷も、元の状況にかかわらず、ほぼ全部です。近隣に住んでいる人の話によれば、一晩のうちに様子が一変したといいます。
驚くのは、その規模の大きさです。ニュースなどで流れた上空からの映像ではなかなか伝わらないのですが、場所によっては14mもの深さで崩壊している。それだけの土砂が、大量の水とともに、そしてそこにあった立木とともに流されたのです。

■2.「過去最大級の流木災害」が起きた。
流木の量は福岡県だけで約21万m3にのぼるとされています。私たちが調査した区域では、直径30p前後の木が中心で、中には40〜50pに達するものもありました。これが川に堆積して大規模な氾濫の原因となったり、家屋に衝突して破損するなどして被害を拡大しました。国土交通省によれば「過去最大級の流木災害」ということになります。
これまでにも国内外の災害現場を数多く調査してきましたが、これほどの量の流木は見たことがありません。また、それが平地に近い下流まで大量に到達していることも、過去にない現象でした。それだけ大量の降雨があり、大規模な洪水が発生したということです。

■3.森林管理が原因だったのか。
流木がダムを埋め尽くす、橋脚に堆積する、家屋に突き刺さる──そうしたニュース映像のインパクトもあり、流木災害は大きな関心を集めました。なぜこれだけ大量の流木が発生したのか、その原因についても様々な意見が述べられました。
一部の報道では、「スギやヒノキなどの針葉樹は根が浅いから」「挿し木による人工林は根の張りが弱いから」、だから流されやすいといった論調が見られました。あるいは、「間伐などの森林整備が十分行われていなかったために災害に弱い山になった」「切り捨て間伐で山の中にあった材が流れ出したのだ」という意見もありました。それらはつまり、林業による森づくり、現在の森林管理の方法に流木発生の原因があるのではないか、という考え方です。
しかし、本当にそうでしょうか。何度も現地を見た立場からは、そうした意見に確かな科学的根拠があるのだろうかと、首をかしげざるを得ません。

■4.根の張り方の問題ではない。
まず、根が浅いから流されたのだ、という見方についてです。スギやヒノキなどの針葉樹は、本当に広葉樹に比べて根が浅いのでしょうか。
これまでの研究によれば、「広葉樹」とひとくくりにしてスギやヒノキと比較すれば、根の密度が高く、結果的に強度も高くなる傾向にあるのは事実です。しかし、当然ながら種類によって違いがあります。この地方に生えている広葉樹は、薪炭林として利用されてきたシラカシやアラカシなどが多く、同じ条件で比較すれば根張りの強度はスギやヒノキと変わらないか、むしろやや弱いということがわかっています。
また、挿し木苗だから根張りが弱いという意見についても、林地で同じ条件で比較検討した科学的なデータがあるわけではありません。九州では、戦前からほとんどの林地で挿し木苗が使われてきました。一様の良質な形質の材が得られることから当時は最先端の手法だったのです。この地域のスギ・ヒノキ林はすべてが挿し木苗によるもので、同じ条件で実生苗と比較したデータがあるわけではないのです。
確かに、公園や道路の法面などを緑化する都市緑化の分野では、実生苗の方が根張りがいいというデータがあるのは事実です。しかし、林地でもそうだという根拠は、現在のところありません。樹種の違いについても言えることですが、峰か谷か、水が豊富かそうではないか、地質や岩盤の深さといった生育環境の違いの方が、根の張り方を大きく左右するというのが、各地の森林を調査してきた印象です。
そして、決定的な事実は、今回の九州北部豪雨では崩壊の多くが地層の深い場所で起こっていたということです。
木が根を張る深さはせいぜい2m程度です。専門家でなければ、20mも高さがある木はもっと深くまで根を張っていると思うかもしれません。しかし、木も生物ですから必要のないエネルギーは使わない。2mまでの深さで十分な水や養分が吸収できれば、体を支えるために根を横に広げて安定させることはあっても、それ以上深く根を伸ばすことはありません。
今回の崩壊は、それよりずっと深い位置で起こっている。木がどれほどしっかりと根を張っていたとしても、崩壊を防ぐことはできなかったのです。

■5.間伐の遅れでもない。
では、森林整備が適切に行われていたかどうか、という点についてはどうでしょうか。
森林整備、中でも間伐は、木の成長を促すと同時に林地の表層を維持する意味でも重要な効果があります。間伐をして林地に日光が入ることで、林地の表面には様々な下層植生が育ちます。この下層植生と落葉などによって、森林土壌は多孔質の水を含みやすい状態を保ち、そのことが水源涵養や洪水軽減といった森林の「機能」を生み出しています。
しかし、間伐がされず、林地が暗くなって下層植生が育たないと、表土がむき出しの状態になります。ここに雨が降ると、雨粒が直接土の表面を叩くことになり、その力で土の粒子が飛散する「雨滴浸食」が起こります。この雨滴浸食によって飛び跳ねた土の粒子が土壌の隙間を埋めて水を通しにくい層をつくってしまうのです。そうした状態の林地では、強い雨が降ると地表流が発生し、表土を削りながら流下します。小さな地表流はへこんだ部分に集まり、徐々に大きな速い流れを生み出し、溝状の浸食を繰り返して拡大していくことになります(細い溝状浸食を「リル浸食」、規模の大きなものを「ガリー浸食」といいます)。間伐の遅れが土砂災害につながるのは、こうした表土の浸食が進行した場合が多いのです。
しかし、今回起こったのは表土の浸食ではなく、深い位置での崩壊です。被害が大きい地域はいずれも林業が盛んで、間伐も適切に行われている山がほとんどでした。また、流木の多くが根のついた状態であったことからも、間伐材を林地に残したことで流木被害が拡大したとは言えないと考えています。
ただ、森林管理の部分で何もできることはなかったかといえば、そうではありません。

■6.森林の「量」をコントロールする。
今回、流木による被害が大きくなった原因のひとつは、その量の多さ(材積の大きさ)でした。これはすなわち、それだけ多くの木が山にあったから、ということになります。
流木の多くは、40年生前後でした。もし、成長した木を伐採して活用し、その後に植林するサイクルがもっと活発に行われていれば、山全体の立木の量はより少なくなり、流出する量も少なくできた、ということは言えると思います。
もちろん、若木が十分に根を張るまでには時間がかかりますから、植林してから一定期間は山が不安定になり、表層部の崩壊が増える可能性は否定できません。ただ、今回のような深い場所での崩壊では、上にどのような木があろうと関係がなかったわけで、森林にある木の総体的な量をコントロールすることで被害を減らせた可能性はあると考えています。

■7.広葉樹を植える意味と効果。
もうひとつ、流木の形状の問題もあります。
スギやヒノキなどの針葉樹は、枝払いなどの保育で棒状に育つ上に、激しい洪水に流される過程で残った枝や根ももぎとられてしまいます。そのことで流れる速度も増し、下流まで一気に流れ下って大量に堆積する結果となりました。また、大きな勢いで家屋に突き刺さり、被害を大きくすることにもつながりました。
それに比較して広葉樹は、比重は針葉樹より重い一方で、幹が曲がり太い枝が広がる複雑な形状のものが多く、流下する過程であちこちにぶつかり、引っかかって速度が低下します。その際に回転して、樹幹の方向と流下する方向が一致しなくなることが多いため、家屋などに衝突したときの被害が少なくなることが考えられます。
つまり、森林をつくるとき、ある程度広葉樹を混ぜて植えることで、流木が発生した際の被害を若干は緩和できる可能性があるということです。また、根の張りが一斉に揃った場合、その直下の層が崩壊しやすいと考えられていますが、異なる樹種を混ぜることで根の張り方にも多様性が生まれ、表層の崩壊防止にもプラスの効果が期待できます。

■8.流れ出た木をどうするのか。
発災から約4カ月が経過した10月末の時点で、幸いにも、大量の流木はほぼ回収されました。回収作業の中心となったのは、森林組合です。地域に自伐林家は少なく、普段から森林組合が施業を請け負っていることから、流木の回収についても一任されたかたちのようです。
林業が盛んな地域で人材や機材の準備があったこと、災害時の連携協定によって近隣の自治体からすばやく応援が来たこともあり、迅速な処理が可能になりました。回収した木材は、公園や駐車場などを仮置き場にして集積し、木の状態によって、その後の利用・処理の方法を分類しています。
流木の中でも、傷がなく質のよい木は木材市場に出して販売します。流下する過程で傷んだり汚れてしまった木は、高圧洗浄してチップ化し、発電用として九州電力やバイオマス発電所などが購入したり無償で引き取ります。チップの一部には工業材料などに利用されるものもあります。最後に、土砂が混じって利用のメドがたたないものは、県が引き受けて焼却処分することになっています。流木が誰の山から出たものかを判別するのは不可能ですから、行政や森林組合が窓口となり、できるかぎり有効に利用するよう努力しているということだと思います。
台風シーズンを迎える前に、流木がさらなる被害につながらないよう速やかに回収することは喫緊の課題でした。それについてはメドが立ちましたが、木と同時に流出した大量の土砂の処理はさらに難しい課題で、復旧を阻む壁になっています。

■9.豪雨がある前提での対策を。
ここ100年ほどという期間でデータを見ると、豪雨は確実に増えています。雨量全体でいえば、地域によって増減は様々なのですが、極端な豪雨は増えている。つまり、今回のような、これまでの記録にはないような大雨が、これからも降る可能性があるということです。そして、福岡県や大分県だけでなく、九州の他の地域でも、あるいは日本のどこでも、その可能性は変わりません。今回のことをひとつのモデルとして対策を考えていく必要があるでしょう。
森林管理の面からは、災害につながりそうな場所に大きな木がないように、優先順位をつけて利用していくことが必要だと思います。勾配が急なところや渓流沿いなど、崩壊しやすい場所を優先的に伐採して利用する必要があるでしょう。渓流沿いは木の育ちがいいので、林業の立場からは植えたい・残したい場所なのですが、そのことと、防災上の要請をどうすりあわせるかもこれからの課題です。
そして、そうした場所には広葉樹を帯状に植えるなど、流木が発生した際に被害が大きくならないような森林へと導いていくことも検討していく必要があるでしょう。
戦後の拡大造林の時代には、急峻な山の上までスギやヒノキが植えられました。当時の植林を経験した人の話では、背負子に土を入れ、苗木の束を持って山を登り、傾斜がきつく岩肌が見えているような場所にまで盛り土をして苗を植えたのだそうです。日本中の山にそういう場所があり、50年以上が経過して、それらの木は大きく育っています。当然、機械は入れません。
将来どうやって回収するつもりだったのだろうか、と考えずにはいられませんが、過去を嘆いても仕方がありません。よりよい方法を、未来に向けて探っていく必要があります。
もし、防災・減災ということだけを考えればよいのであれば、流木を出さないためには木を全部伐ってしまえばいい、とか、砂防堰堤や治山堰堤を大量につくればいい、ということになる。でも、山から木をなくしたり、山をコンクリートだらけにすることなど、誰が望むでしょうか。今回被害があった地域は、所有者がいて経済林としてきちんと維持しておられるところがほとんどです。林業との共存をはかりながら対策していくことが重要になります。
今回の災害で、林道や作業道網はずたずたになってしまいましたし、山に向かう県道や市道も寸断されました。まずはその復旧、整備が急務です。自治体と、国交省・林野庁が情報を共有しながら対策を進めていますし、被害が甚大であったことから、民有林にも国の直轄で対策を実施する「民有林直轄治山事業」が決定し、懸命の復旧作業が行われています。次の夏、大雨のシーズンまでに弱った山をできるだけ回復させること。災害の状況をデータ化し、今後の、そして他の地域の対策につなげていく必要があると思っています。

※編集室注:被害状況の数値については、2017年9月時点での林野庁、国交省、福岡県などの発表に基づいています。


[久保田 哲也]
1955年 兵庫県生まれ。京都大学大学院(林学専攻)修了。建設省土木研究所(現国土交通省)、環境庁(現環境省)などを経て現職。森林災害・土砂災害とその原因と対策、山地災害・土砂災害の発生気象条件などについて、国内外でのフィールドワークをもとに研究。また、気象予報士の立場からも情報発信を行っている。
主な著書に『Early Warning of Sediment Related Disasters in Mountain Ranges』(共著、Lambert Academic Publishing)『土砂災害の警戒・避難システム』(共編著、九州大学出版会)『広葉樹の育成と利用』(共著、海青社)『Landslides』(共著、A. A. Balkema Rotterdam)など。