■第51号(2015.4発行) 特集:日本人が森に学ぶこと。

バイオマスと森林 ─その課題と可能性

NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊みゆき(談)


1.世界が期待する新エネルギー。
2.熱か、電力か。
3.乱立するバイオマス発電計画。
4.「エネルギー=電力」の先入観。
5.制度も柔軟に見直しを。
6.普通に使えることが、普及のカギ。
7.日本の山を宝の山に。



森林は今、新しいエネルギー源として大きな注目を集めています。化石燃料の問題点が顕在化する中で、持続可能な社会につながる再生可能エネルギー「バイオマスエネルギー」が、それです。この機運は、日本の林業にとって光となるのか。現状から見えてくる様々な問題点も含めて考察します。

■1.世界が期待する新エネルギー。
「再生可能エネルギー」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは何でしょうか。太陽光でしょうか、風力や地熱でしょうか。しかし実は、日本でも世界でも、利用されている再生可能エネルギーで最も多いのは「バイオマス」──「生物由来の有機資源」です。その潜在量は世界のエネルギー総需要の約7〜10倍あるとされており、大きな期待を集めているのです。
バイオマスには、食品廃棄物、生ゴミ、稲や麦のわら、下水汚泥など様々な種類がありますが、日本で利用可能とされるバイオマス資源のうち最も大きな割合を占めるのは、木くずや製材端材、剪定枝などの木質バイオマスです(さらに、木材からつくられる紙類を加えれば、日本のバイオマス資源の半分以上が森林由来です)。
現在、日本の森林は有史以来最も豊かになったといわれており、森林蓄積は約49億m3にのぼります。一方で、木材自給率は若干上昇したとはいえ2013年統計で28.6%にとどまり、伐った後で山に放置される切り捨て間伐材は2000万m3を超えるといわれています。山にある豊かな木を利用でき、中でもこれまで捨てられていた木に新たな用途が生まれるとすれば、木質バイオマスの普及は林業にとって大きなチャンスであり、限られた資源を有効に使うという意味で環境にとっても大きなメリットがあるといえます。
しかし、よいことばかりに思える木質バイオマス利用も、発展途上にあるが故の様々な課題を抱えています。

■2.熱か、電力か。
木質バイオマスは、基本的には燃やすことでエネルギーを得るのですが、主な方法として、燃焼の熱をそのまま利用する「熱利用」と、電気をつくる「発電」、その両方を組み合わせて熱も電気も供給する「コジェネレーションシステム(以下、コジェネ)」があります。
圧倒的にエネルギー効率が高く、また技術としても安定しているのは熱利用です。これは、木質バイオマスを燃やし、その熱を(冷)暖房や給湯などに利用するというものです。薪ストーブは熱利用の最も身近なかたちですし、木材チップや木質ペレット(細粉化した木材を圧縮成型したもの)などを燃料にするボイラーは、ビニルハウスの温度調節や、公共施設やホテルなどの冷暖房、温泉施設や温水プールの温度保持などに広く利用されています。エネルギー効率は、最新の機器であれば80〜90%に達しています。ただ、熱には「運びにくい」という特徴もあり、生み出した熱は地産地消、その近隣地域で利用する必要があります。
一方、発電は、木材チップや廃材などを燃やすことで水蒸気をつくり、その水蒸気でタービンを回すのが基本の仕組みです(火力発電の技術をベースに、石油や石炭、天然ガスなどの代わりに木質バイオマスを燃料にするということです)。しかし、発電の過程で大量の排熱が出るため、エネルギー効率は20%台にとどまります。主な燃料である木材チップは、水分量が多いと発電効率が落ちるために乾燥させる必要があり、乾燥過程で使うエネルギーを算入すると効率はさらに下がって20%程度になってしまいます(木質バイオマスをガス化して発電する木質ガス化発電という技術もあり、小規模でも高い発電効率で利用できますが、日本ではまだ成功例はほとんどありません)。
そこで、バイオマス先進国のドイツなどで多く取り入れられているのが、発電の排熱も利用するコジェネです。捨てていた「8割の熱」を活かすことでエネルギー効率は飛躍的に高まります。ただ、前述したように熱は運びにくい性質がありますから、まず「地域で利用できる熱量」を考えた上で、「その熱量に見合った発電量」を算出するというのが、資源を無駄なく活かすための筋道です。
それぞれに特徴があり、技術的にもまだ向上の余地があります。しかし、これまでの知見からはっきりしているのは、発電だけをして熱を利用しないのは非常に効率が悪く、資源の無駄づかいになるということです。
ところが、日本で現在計画されている木質バイオマスエネルギーの事業は、その多くがコジェネではない発電単独に偏っており、しかも規模が大きすぎるという懸念を抱えているのです。

■3.乱立するバイオマス発電計画。
現在、日本には70件を超える木質バイオマス発電所の計画があります。これまでに稼働している発電所が約47カ所ですから、急激にその数を増やそうとしていることがわかります。
この背景にあるのが、2012年7月に開始した再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)です。太陽光や風力、地熱、水力、そしてバイオマスといった再生可能エネルギーから生み出された電力を、電力会社などが将来にわたって一定価格で買い取る制度で、すでに世界80以上の国や地域で取り入れられています。太陽光発電の急速な普及でもわかるように、「売電できる」ことは新しいエネルギー事業を強く後押しするのです。
木質バイオマスの分野でもこの制度をきっかけに多くの発電所が計画されましたが、先ほど述べた「効率の悪さ」以外にも、様々な問題点が見えてきています。
ひとつは、必要な燃料の量です。計画されている発電所で最も多いのは5000kW規模ですが、これを常時稼働させておくためには丸太換算で年間10万m3程度の木材が必要です。これらの計画では、切り捨て間伐材や、根や枝などの林地残材を指す「未利用材」の活用をかかげる場合が多いのですが、当然のことながらそれは、製材や合板にするための質のいい木材を得た後の「残り」であり、経費をかけてまで山から降ろす必要がないと判断された材です。これを、どうやって大量に山から出してくるのか、ということです。
5000kW規模の木質バイオマス発電に必要な10万m3の未利用材を集めるには、50km圏内に10万〜20万m3程度の建材、合板用木材の生産がないと難しいと言われます。多くの事例では、燃料用の丸太を5000円〜7000円/生t程度で買い取るようです(生tは、伐採して1カ月程度の水分率約40%の重量)。FIT導入以前の3000円程度に比べれば高くなりましたが、この価格で10万m3の木材を安定的に供給することは簡単ではありません。また、「未利用バイオマス」を山から降ろしてくるためには、道(路網)やマンパワーが必要となるため、現在計画中の発電所が稼働する1〜2年の間に搬出量を大幅に増やすことは難しいでしょう。
一方、熱利用であれば、10万m3も集める必要はなく、地域で集められる規模のボイラーを導入すれば無理がないし、発電用以上に高く買取ることも可能です。

■4.「エネルギー=電力」の先入観。
では、問題の多い「発電のみ」の事業が、なぜ多く計画されるのでしょうか。
ひとつには、私たち日本人の意識の中に(そして、政策決定をする人たちの頭の中にも)、エネルギー=電力という先入観があるからではないかと思います。2011年の震災に直面した私たちは、原子力発電に代わるものとして再生可能エネルギーを使おう、増やそう、と考えました。その中で、木質バイオマスについても「原発の代わりに電力を供給する方法」として位置づけてしまったところがあるでしょう。
バイオマス政策の中で、火力発電の仕組みをベースにした発電のみで5000kW規模の施設が「モデル」とされたことも大きかったと思います。林野庁が発表している「木質バイオマス発電・証明ガイドライン Q&A」には、「電力販売収入は概ね12億円」「燃料購入費の7〜9億円が地域の収入に」「雇用は50人以上となる」…というような表現が踊ります。林業で十分な収入を見込めない山間地が希望を抱くのも無理はありません。しかし、地域ごとの林業の現状、燃料調達の見込み、綿密な計画がなければ、こうした発電所は計画倒れに終わりかねないのです。
新たに産業を起こすとき、そこには目指す姿、グランドデザインが必須です。目標に向けて戦略的に誘導していくための細やかな制度設計が必要です。しかし、残念ながら、今の日本のバイオマス政策にはまだまだそれらが欠けており、そのために迷走していると言わざるを得ません。

■5.制度も柔軟に見直しを。
日本のFIT買取価格は、発電所の規模の大小や発電効率にかかわらず、切り捨て間伐材や林地残材などの「未利用材」が最も高くて1kWhあたり32円、工場残材などの「一般木材」が同24円、建設廃材などの「リサイクル木材」が13円となっています。未利用材を高く設定しているのは、林地に放置された2000万m3もの切り捨て間伐材の利用を促すためですが、結果的に材に支払われるのは1m3 5000円程度と低い価格になります。
バイオマス先進国であるドイツでも、FIT導入当初はやはり5000kW規模の発電所がたくさんできました。それらが競合したことで燃料の木材チップが高騰し、採算が合わずに経営が成り立たなくなった例がたくさん出たのです。発電効率を上げる必要についての認識が広がったことで、徐々に熱利用やコジェネの施設へと移行したのですが、その中でFITも、規模の小さな発電所からの電力の買取価格を高くしたり、買取の前提にコジェネであることを義務づけるなどの改正を行ってきました。制度の側からも、木質バイオマス利用をより効率の高いものに、そして地域の実情にあったものへと誘導していった経緯があります。せっかくこうした先例があるのですから、日本でもそれを活かさない手はないと思います。燃料を10万m3も必要としない、もっと小規模なコジェネを後押しするため、規模別の買取価格の設定や熱利用への上乗せも有効でしょう。より有効なバイオマスの使い方を、制度を通じて実現していくという姿勢で、柔軟に見直すべきだと思います。

■6.普通に使えることが、普及のカギ。
では、熱利用はどうでしょうか。熱利用やコジェネの場合は、エネルギー効率の高さから資源をより有効に使えますし、燃料価格にもより高い価格を設定できるため山側にも経済的メリットが生まれます。ドイツでは木質バイオマス利用の9割が熱利用です。
現在のところ、日本で入手できる木質バイオマスボイラーは、重油ボイラーに比べて初期の設備費用が高いという難点があります。熱利用が普及しているドイツでは重油ボイラーと同じくらいの価格ですが、日本では重油ボイラーの10倍近い費用がかかることさえあります。ただ、発電施設を新たにつくるよりずっと安価ですし、ランニングコストが安いため、燃料調達と熱としての消費のめどさえたっていれば十分に採算がとれるのです。
いま、日本国内には100数十台のチップボイラー、500台以上のペレットボイラーが稼働しています。重油の高騰を受け、経費を抑える対策の一環としてそれまでの重油ボイラーから切り替えた企業が数多くあるのです。製材会社などでは、自社で出る端材を燃料にチップボイラーを稼働させ、木材を乾燥させる熱源として利用しています。
また、徐々にではありますが、インフラ部分での変化も起きています。岩手には数少ない木質バイオマスボイラーの国産メーカーがあり、県と共同で、含水率の高い木材チップでも燃やせる小型ボイラーを開発しました。営業拠点があり、メンテナンスの体制も整っています。たとえば農家がビニルハウスの冷暖房用のボイラーを導入したいと考えたとき、「この広さのビニルハウスならこの性能のボイラーが最適」「補助金がこのくらい出る」等々、きちんとコンサルティングをしてくれる。木質バイオマスのボイラーだから特別なことをするのではなく、これまでの重油ボイラーと、初期費用や運転費用、使い勝手、メンテナンスの環境などを具体的に比較検討できる環境ができつつあります。技術というのは、ここまできてようやく普及するのだと思います。その点で、国内の状況に合わせた技術開発、環境整備も行っていく必要があるでしょう。

■7.日本の山を宝の山に。
まだまだ問題山積であるとはいえ、山の木に需要が生まれていることには違いありません。最初に述べたように、これは林業にとっても大きなチャンスなのです。
もちろん、バイオマス資源としての利用は木の利用の最終段階です。建築用材や家具などの材料として使い、合板や集成材の原料として使い、紙の原料として使い…そうした利用の最後に、「燃やして利用する」という段階があるのが理想です(これを「カスケード(段階的)利用」といいます。捨てるところなく利用できるという意味で、山側にとってもそれが理想でしょう)。けれど、切り捨て間伐のようにまったく使われない木材があることを考えれば、とりあえずは、捨てたまま腐らせるより燃やして使うことのほうが有効だと思います。山から木が出ないことが今の大きな問題ですから、山を「動かす」ための呼び水として、とにかく木を使う方向へと舵を切ることが大事です。
そして、このチャンスを活かすためには、林業の側、山の側にも考え方の変革が必要だと思います。たとえば、市場のニーズに対応した製品づくりをすることもそうかもしれません。市場ニーズをつかむことで国産材の利用を増やすことができれば、山は動きます。バイオマス以外の部分の利用が増えることで、結果的にバイオマスも増える、そんな状況に近づくのではないでしょうか。
木質バイオマスを本当の意味で活かし、それを林業の活性化、森林の健全化につなげるには、まだまだ地道な努力が必要だと思います。林業・製材業と行政や企業が協力し、また消費者も参加しながら、道をつくっていく必要があります。けれど、これまで利用されてこなかった木質バイオマスに光が当たることで、日本の森林には新たな価値が付加されます。森林という貴重な資源を地域の実情に沿って活かすこと。バイオマス利用が、その原動力になればと思っています。


[泊みゆき]
京都府生まれ。日本大学大学院国際関係研究科修了。(株)富士総合研究所で環境問題、社会問題についてのリサーチに携わった後、1999年、バイオマス産業社会ネットワークを設立。2004年NPO法人取得にともない理事長に就任。バイオマスを通じた持続可能な社会の実現に向けて活動し、政府に対しても提言を行ってきた。経済産業省、総務省などの関係委員会の委員も務める。
主な著書に『バイオマス本当の話』、『バイオマス産業社会』(以上、築地書館)、『地域の力で自然エネルギー!』(岩波ブックレット)、『草と木のバイオマス』(朝日新聞社)など。