■第30号(2004.10発行) 特集:日本人が森に学ぶこと。

エンジニアードウッドと大規模木造建築
木材のよりよい利用のために

独立行政法人森林総合研究所材料接合研究室長 林 知行(談)


1.ビルも大型ドームも、木でつくる時代がやってきた。
2.「経験と勘」から、「構造計算」へ。
3.木造建築に「暗黒時代」が訪れた。
4.もういちど、木造へ。
5.12メートルの梁と、木材の地産地消と。
6.大切なのは、木をよりよく利用するシステムづくり。



木造校舎が復活しはじめた。公共施設を木造で――そんな条例を制定した自治体もある。それを可能にした中心的な技術のひとつが、「エンジニアードウッド」と呼ばれる木質建材。その技術は、建築素材の常識を変えたばかりでなく、建築構造にも大きな影響を与え、さらには地球環境や資源の面からも日本の木材利用のあり方を変えていきそうだ。

■1.ビルも大型ドームも、木でつくる時代がやってきた。
音楽ホール、競技場、さらにはジェットコースターまで――。最近、大きな木造の建築物をよく目にするようになりました。詳しい経緯は後述しますが、1987年に建築基準法が改正され大規模な木造建築が可能になって以降、総計で5000件以上、特にここ数年は年間に400件以上の建築実例が生まれています。
たとえば、秋田県に建築された「大館樹海ドーム」。178m×157m、高さ52mのドーム型の競技場で、集成材によるアーチ型の構造が、見事にドーム全体を支えています。庁舎や図書館などの公共建築物にもたくさんの事例が見られますし、小学校や中学校の校舎を再び木造で、という動きも活発です。
長年の間、鉄とコンクリートで建てられることがあたり前だったこうした建物を、木造で建築する。それを可能にしたのが、「エンジニアードウッド(またはエンジニアリングウッド)」と呼ばれる構造用の木質建材なのです。

■2.「経験と勘」から「構造計算」へ。
大規模な建築物を建てるときには、安全を確保するために様々な構造計算が行われます。地震や積雪などといった外力に対して、建物の構造が十分耐えうるかどうかを計算によって調べるのです。この段階では材料の強度性能を仮定して計算するわけですから、実際の材料の性能がその仮定とかけ離れていれば、安全性の保証ができなくなります。
かつて、日本で使われる木材には、強度などの性能を数値化した基準が、非常に大ざっぱなものしかありませんでした。木材の強度に最も影響を及ぼすのは含水率なのですが、その規定さえなかったのです。樹種と寸法以外は、節の有無といった見た目の美しさが価値判断の基準だったといってもいいでしょう。もともと生物材料である木材は、当然のことながら品質にばらつきがあります。一本一本の木材が持っている性能は、外から見ただけでは正確にはわかりません。したがって、客観的な基準のないそうした材料で建てられる建築物の安全性は、大工さんの長年の経験と勘(と度胸)に頼っていたわけです。
小規模な住宅などでは、それで事足りていた面もあるわけです(実際の地震の被害などを考えると、十分ではなかった面が多々あることも明白ですが)。しかし、大規模な建築物を建てる場合には、強度性能の保証がない材料は危なかしくって使えません。また、強度の高い材料ほど高価になる場合が一般的ですから、「その建物にとって必要十分な強度」を実現する材料を選べることが、コストの面からも求められます。大規模な木造建築をつくるためには、木材も、鉄やコンクリートと同様に正確な強度計算ができる材料になる必要があるのです。
そこで登場するのが、「エンジニアードウッド」です。
「エンジニアードウッド」とは、文字通りengineerした(構造技術者が関与した、というほどの意味でしょうか)木材のことです。様々な種類がありますが、共通する定義としては、「工学的な手法によって強度性能を保証する工程を経た」木質建材ということになります。
エンジニアードウッド化するには、大きくふたつの方向があります。
ひとつは、丸太から切り出した「製材」(いわゆる「無垢材」にたいして、ヤング率や曲げ強度といった様々な強度性能についての「身体検査」を行い、性能を保証するもの。もちろん、含水率がきちんと管理されていないと強度の保証はできませんから、この場合、乾燥材であることは最低の条件です。これを「機械等級区分製材」といい、それぞれの材に含水率や強度特性が表示されます。エンジニアードウッド化のレベルとしては初歩的ですが、小規模な住宅などに使う分には十分な方法です。
もうひとつは、耐久性の高い接着剤で幅の狭い木材を接着したり、小さなエレメントに分解したものを合理的に積層接着するなどして再構成し、強度特性を高める方法です。ひき板を何枚も積み重ねてつくる「構造用集成材」、単材(ベニヤ)を何層にも積み重ねてつくる「構造用単板積層材(LVL:Laminated Veneer Lumber)」、木材から切り出した短冊状の切片(ストランド)を強度が出るように積み重ねた「OSB(配向性ストランドボード)」など、用途によって様々な種類があります。
この種の製品(構造用木質材料)では、ばらつきが少なく、計算可能な強度が保証できることに加えて、製材では不可能な長さや幅の材をつくることができます。また、製材品としては利用できない部分も利用できるという点で、材料利用の歩留まり率のアップやリサイクルの面でも重要な役割を果たしていることがわかると思います。

■3.木造建築に「暗黒時代」が訪れた。
こうしたエンジニアードウッドの技術はここ15年くらいの間に大きく進歩し、冒頭に述べた大規模木造建築を支えてきました。けれど、それ以前、日本の木造建築の研究には、30数年におよぶ空白の期間があったのです。
それは、戦後まもなくのことでした。
戦争で爆撃を受けた街並みは、「火に弱い」木造建築を浮き彫りにしました。これに一種の拒否反応を示した研究者や実務者は多かったのです。それに追い討ちをかけるように、昭和20年代から30年代にかけて、ジェーン台風などの自然災害が相次いでおこりました。木造住宅が受けた被害は、「災害に対する耐性の弱さ」として認識されました。さらに、日本の山林は戦争中に大量に伐採されたため、当時は木材そのものが不足していました。このため、資源の面からも、できるだけ木を使わないような建築にしようという社会的な要請がありました。
こうした背景から、木造建築離れが始まります。鉄筋コンクリートのような、「新しく」「強い」建て方へ、建築界の流れが大きく変わったのです。木造建築の耐火基準が厳しくなり、建築物の大きさも高さ13m、軒高9mまでに制限されました。一方で木造校舎への補助金が廃止されるなど、制度の面でも逆風が続きました。日本建築学会が「木造禁止決議」を行って木構造の研究を放棄するに至って、この流れは決定的になったのです。
一般の住宅建築の世界では、従来の在来軸組工法に加え、昭和30年代に木質プレハブ住宅が、昭和40年代後半にはツーバイフォー工法が登場するなど、それなりの動きはありました。しかし、大学をはじめとする研究機関での研究は鉄やコンクリートがほとんどで、木造建築の構造力学的な研究は散発的にしか行われず、まさに「大工さんまかせ」の状態が続いたのです。

■4.もういちど、木造へ。
昭和60年代のはじめ、大きな転換期が訪れます。
その背景として、まず、建築業界が新しい構造用素材を求めていたことがあげられます。鉄やコンクリートの建築に目新しさがなくなったことに加え、海外に行けば、巨大なドーム、体育施設、学校建築、事務所、駅舎、さらには3〜4階建てのアパートなど、すばらしい大規模木造建築の事例を目の当たりにする。日本でも同じことができるはずではないか、という思いが生まれたのも当然のことかもしれません。
一方、木材業界も、住宅建設全体が頭打ちとなり、さらに木造率の減少に苦しんでいました。従来からの需要に頼るだけではなく、なんとかして新しい需要を開拓する必要があったのです。
さらに、海外の木質素材の輸出国からの要請もありました。当時の日本は500億ドルを超える大幅な貿易黒字を計上し、貿易摩擦問題の真っ只中でした。その状況を改善するために行われたMOSS協議(市場指向・分野選択型協議)で関税引き下げの対象になった分野のひとつが、エンジニアードウッドなどを含む林産物だったのです。しかし当時の日本には、各種のエンジニアードウッドに対する規格が十分ではなく、またそれを実際に使うための許容応力度体系なども整備されていなかったのです。輸入製品を受け入れ、それを利用するには、木質建材と木造建築についての制度全体を変える必要が生じたのです。
こうした流れを受けて、行政も動き始めます。1987年、建築基準法の改正と大断面構造用集成材に対してのJAS規格制定が行われました。木造建築物の規模を「高さ13m、軒高9mまで」としていた規制が取り払われ、木造建築は新しい時代へと一歩を踏み出したのです。

■5.12メートルの梁と、木材の地産地消と。
こうした「木造回帰」ともいえる気運のもと、日本でも、それに応える木質建材が必要になりました。大規模な木造建築が計画されれば、強度がきちんと計算でき、安全性が保証できるエンジニアードウッドは不可欠となります。
前述したように、構造用集成材のようなエンジニアードウッドの大きな利点のひとつは、長さや幅といった寸法の制限が少ないことです。3mの丸太から4mの梁はつくれませんが、集成材なら可能です。大規模な建物に12mの梁が必要だというとき、積層接着の技術を使えば、寸法も強度も満たした梁をつくることができる。大切なのは、金属など他の材料で代替しなくても、「木で」それをつくれるということです。
ここで考えておきたいのは、「木材利用」という視点に立った時に、エンジニアードウッドが果たす役割です。
現在、日本の木材自給率は20%を切ったまま推移しています。一方で、日本の森林の蓄積量は約38億立方mにのぼります(これは日本の木材消費量の約190年分に相当します)。天然林はあまり増えていないのですが、戦後大量に植林を進めた人工林は、この30年間で約3.4倍にもなっているのです。木の生長量が伐採量をはるかに上回っているためで、この量は年々増え続けています。にもかかわらず、海外から大量の木材を輸入しているのが現状です。
樹木はその生長の過程で、地球温暖化の原因である空気中の二酸化炭素を固定します。また伐採された後も、木材として利用されるなら、焼かれたり腐ったりしないかぎり二酸化炭素を固定しつづけるのです。
また、木材製品は鉄やアルミなど他の素材に比べるとはるかに小さなエネルギーで生産できるという利点もあります。木を伐って利用し、その後に植林して次の木を育てるというサイクルは、本来、地球環境にとってもプラスの貢献をするはずなのです。しかし、実際に日本で消費されている木材の大半は、遠く外国から、より多くの輸送エネルギーを使って運ばれているのです。
こうした(矛盾した)状況を改善することにも、エンジニアードウッドは貢献できるはずです。
たとえば、かつて大量に植えられたスギは、増え続ける人工林の中でも約45%を占めています。これがうまく利用できていないことは、林業界にとっても大きな(そして頭の痛い)問題です。
この問題に対処するため、スギ材のエンジニアードウッドに対する様々な取り組みが行われてきました。特にスギの無垢材を乾燥し、強度に関するきちんとした身体検査を行ってエンジニアードウッドに加工する技術は近年急速に進歩してきました。このような無垢材のエンジニアードウッド(時には丸太)を用いた大規模木造もあちこちで見られるようになってきました。
一方、スギの構造用集成材の工場も増えてきました。地元産のスギ構造用集成材を用いた中・大規模木造は各地で見られます。ちなみに、冒頭で紹介した「大館樹海ドーム」の構造部材には、地元秋田産のスギ2万5000本を加工した集成材が使われています。
さらに、柱角には使えないような小径で短尺な原木や根曲がりの原木も積層接着の技術を応用することで新たな用途を見出そうという技術開発が進んでいます。スギの構造用LVLや厚物構造用合板、さらにはクロスプライボード(幅はぎ接着した板を直交させて積み重ね、厚くて寸法安定性の高い板にしたもの)などはすでに実用化されました。その他にも、スギと他の樹種とを組み合わせて生産量やコスト面でより使いやすい積層加工製品をつくる技術開発も進行中です。
このような新用途、新技術の開発が進められてきた一方で、スギの主な用途であった在来軸組工法の柱角のマーケットは、品確法の施行と低コスト乾燥技術の普及の遅れから、他の木質建材(主に欧州産材を用いた集成管柱)に大きく侵食されてしまいました。こうした柱角の復活には、できるだけコストを押さえながら乾燥する技術を普及させることが必要ですが、それ以外にも流通の改善や商品性の向上など取り組まなければならない課題が山積しています。
色々と言いましたが、工学的な手法を取り入れることで、結果として、現在日本の山林に蓄積している木を、上手に伐って上手に使うことができるようにする。それが、エンジニアードウッドの担っているひとつの重要な役割だと思います。
もちろん、実際に木を消費する道筋をつけることも必要です。地元の木材で個人の住宅を建てることもそのひとつでしょう。そして、まとまった量の木材を使うという点では、現在増えつつある中・大規模な木造建築は、とても大切な役割を担っていると思います。地域の山林の材をたくさん使って地域の建物を――国道沿いの商店や庁舎、学校の校舎などを――木造で建てることができれば、地域の山林の活性化や環境への貢献など、メリットははかりしれません。そういう利用のしかたを支えるのが、エンジニアードウッドの技術なのです。

■6.大切なのは、木をよりよく利用するシステムづくり。
実は、合板や集成材などの木質材料(小さなエレメントを再構成した材料)を「人工的なもの」「化学薬品をつかったもの」だと敬遠する、という風潮はまだまだ根強く残っています。
ひとつには、シックハウス症候群の問題があります。シックハウスの原因には色々なものがありますが、美しさやコストの問題を優先して、内装材や造作材にホルムアルデヒドが放散しやすいユリア系樹脂の接着剤を使ってきたことがその原因の一つとして考えられています。その後、大変厳しい規制が設けられたことや、ホルムアルデヒドを含まない接着剤の使用など技術面での努力が行われたこともあり、こうした問題はホルムアルデヒドに関してはほぼ解決されたといえるでしょう。
しかし、もともと構造用の集成材や単板積層材に使っていたフェノール樹脂やレゾルシノール樹脂などの接着剤では、いったん硬化してしまえば、ユリア系樹脂に比べホルムアルデヒドの放散は非常に少ないのです。また、最近管柱などに使われている水性ビニルウレタン系の接着剤は、元々ホルムアルデヒドを使っていないので放散することはありません。
接着剤の耐久性にしても、耐水性の低いユリア樹脂接着剤を用いた造作用の木質材料を水回りに使ったりするから剥がれるのであって、構造用の接着剤を用いた木質材料をきちんとした状態で使えば、簡単に剥がれたりはしません。
こうした誤解や情報の不足が、木質材料のすべてを「悪者」とするような根拠のあいまいな嫌悪感につながっているとしたら本当に残念なことであり、事実に基づく正確な情報を伝えていく必要があると思います。
また、木質材料を無垢の木材と対立する存在であるかのように位置づける考え方も、まだまだ多いように感じます。
もちろん、無垢材にこだわる人がいてもいいし、そのこと自体を否定するものではありません。性能やコストなどを相対的に考えつつ、木質材料も無垢材も、適材適所で使っていけばいいはずです。
「よりよい木材利用」という視点に立ったとき、エンジニアードウッドが新しい技術で広げてきた構造用の用途を否定する根拠がどこにあるのか、事実に基づいて考えてほしいと思わずにはいられません。
地球環境のことを考えても、資源の面でも、あるいは地域の山林や暮らしの将来像を描く上でも、「上手に木を伐って上手に使う」ことが、今こそ必要だと思います。そのためには、もちろん、きちんとしたビジョンや一定の基準が不可欠です。人工林の、再生可能な森林から生まれた材を使うこと。廃棄する部分をできるだけ少なくする工夫や、運送などにできるだけエネルギーを使わない工夫(これが、地元産材を使うという考え方につながるのですが)も必要です。また、エネルギー利用や化学的な利用など、建築素材として以外の利用方法も視野に入れる必要があるでしょう。
木を利用するための「技術」は、かなりの水準に達していると思います。それらを最大限に活かしながら、これからは、法的な整備や利用する側の意識づくりも含めた全体で、より有効なシステムづくりをしていくことが重要だと考えています。


[林 知行]
1952年大阪生まれ。京都府立大学卒業、京都大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士。東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻連携併任助教授などを経て現職。専門分野は木質材料、木質構造。
主な著書に、『ここまで変わった 木材・木造建築』(丸善ライブラリー)、『ウッドエンジニアリング入門』(学芸出版社)、『デザイニングウッド』(INAX出版部、共著)、『木材活用辞典』(産業調査会、分担執筆)など多数。