■第28号(2003.10発行) 特集:日本人が森に学ぶこと。

「森林環境税」創設――
森林・林業基本法時代、地域の森林とともに生きるための、
新たな試みとして。


高知県森林局 木の文化推進室 室長 宮地辰彦(談)


1.高知の森林のために、新しい税が誕生した。
2.公平な負担と、開かれた運用と。
3.税は、県民の意識づくりと森林整備の両面に利用。
4.県民の強い期待感は、森林県・高知ならでは。
5.自分たちの森林を、自分たちで守るために。



2003年4月、高知県で新たな税制「森林環境税」が創設された。森林保全を目的とする税としては全国初の試みであり、注目を集めている。2001年の森林・林業基本法の改正では、環境の側面から森林の重要性を捉えなおす考え方とともに、地域の独自性に重きをおいた森林管理への方向性が示された。全国の自治体で、森林保全のための体制の整備と財源確保が大きな課題としてクローズアップされる中、高知県の試みは、どのように進んでいくのだろうか。

■1.高知県の森林のために、新しい税が誕生した。
新しく生まれた「森林環境税」――正式名称は「県民税均等割の超過課税」――は、その名前のとおり、県民税に上乗せする形で徴収されます。金額は一律年間500円。課税対象は個人約27万人、法人約1万5000社で、年間の税収は約1億4000万円を見込んでいます。「県民参加による森林の環境面の機能の保全」を基本的な目標として掲げた、新しい税の誕生です。
税の創設に向けた動きがスタートしたのは平成13年(2001年)です。契機となったのは、平成12年(2000年)4月に施行された「地方分権一括法」でした。「地方分権一括法」では、様々な面で国と地方自治体の関係が見直されましたが、そのひとつが、地方税法に規定のない「法定外普通税」を新設する場合の手続きの緩和(「国の許可制」から「事前協議制」への移行)や、環境保全など税収の使途を特定した「法定外目的税」の創設など、自治体の課税自主権が拡大したことです。地域の課題を地域で解決するために独自の財源をつくることが、より効率的に行えるようになったのです。
県土の約84%を森林が占めている高知県にとって、森林とどのように向き合っていくかということは、大きな「地域の課題」です。森林面積の約66%は継続的に人の手を入れる必要のある人工林で、その多くは間伐を必要とする時期を迎えています。しかし、林業従事者の数は30年前と比較すると3分の1以下に減っており、手入れ不足で荒廃する森林は増加する傾向にあります。
木材価格の低迷などからくる林業不振の状況は、森林県・高知でも同じです。「林業による木材生産の結果、森林が健全に保たれる」という従来の考え方は、見直しを図る必要に迫られていました。森林が荒れることは、水源涵養や災害防止といった、いわゆる公益的機能の低下を招き、環境にも大きな影響を与えます(一方で、県民の森林に対するニーズは、むしろ公益的機能の発揮へと移行してきています)。こうした状況を考える時、森林の公益的機能の保全を目的とする新たな森林管理の方法を導入することは、高知県の課題に対する、ひとつの有効な解決法だといえます。
時期を同じくして森林・林業基本法が施行され、「木材生産などの経済面重視」から「公益的機能重視」へと森林の捉え方の転換が示されました。こうした動きも、高知県の取り組みの追い風になったといえます。

■2.公平な負担と、開かれた運用と。
県民参加による森林保全――新しい税の目的が定まってからも、その仕組みや徴収方法が決定するまでには、様々な方法が議論されました。
有力だったのは、水道料金に上乗せして徴収する水道課税方式(いわゆる「水源税」)です。これは、すでに多くの自治体が検討しており、その考え方も浸透しつつある、現実的な方法でした。しかし、県内には水道普及率が低い地域もあり、水道を利用している人だけが税を負担すれば県民の間に不平等が生まれます。「できるだけ幅広く公平に、県民が森を支えられる方法であること」は、新しい税の重要な条件です。また、水との結びつきだけではなく「森林」を意識できるものにしたい、という思いもありました。県民税に上乗せする形での課税はそうした条件にかなっていたし、徴収にかかるコストが抑えられることもメリットでした。500円という金額は、先立って行ったアンケート結果を参考にし、「県民の理解が得られる範囲内の金額を」という考え方に基づいて決定しました。
目的を定めて創設した税ですから、その目的どおりにきちんと使うための仕組みをつくることも重要です。
まず、税金の管理を明確にすること。森林環境税は県民税に上乗せする「普通税」であるため、経理をはっきりと独立させることが必要でした。そこで、新たに「森林環境保全基金」を設置し、森林環境税の税収相当額をこの基金に組み入れることとしました。そこから目的に応じた予算編成を行うのです。
税の制定を検討してきた2年間はもとより、税が制定された後も、予算配分や利用方法を決定する過程に県民が参加できる仕組みをつくったことも、大きな特徴です。県民の方の代表者や有識者の方々の参加による「森林環境保全基金運営委員会」を新たに設置し、どれだけの金額を、どんな目的で、どんなことに使うのか、検討することにしています。委員会での議論の過程は高知県ホームページで公開していますし、県民の方々からの意見や提案も、随時取り入れていけるような仕組みをつくっていきたいと考えています。

■3.税は、県民の意識づくりと森林整備の両面に利用。
この税の使い道の大きな柱は、「県民参加の森づくり推進事業」と「森林環境緊急保全事業」というふたつの事業です。前者は、森林の役割や保全の重要性、森づくりへの県民の理解を促進するという、いわば「意識づくり」のための事業、後者は森林に対して直接働きかけを行う事業です。
「県民参加の森づくり推進事業」では、県民に森づくりへの理解と参加を促す広報を継続的に行います。また、11月11日を「こうち山の日」と定め、記念シンポジウムを開いたり、補助金を設けて県民が自主的に企画運営する森づくりにかかわる様々な活動を支援していきます。この活動支援の計画には、市町村や森林組合、NPO、小規模なところでは地域の子ども会などからも、森林に入って林業体験をしたり、、木を使ったものづくりや遊びに取り組んだり…と、様々な内容の活動の企画が寄せられています。森林に関わるこうした活動が暮らしの中に根付くこと、それによって森林に目を向け、関心を抱く人が一人でも多くなること。そのための環境整備は、森林環境税の大切な役割のひとつです。
間伐などの手入れが必要な森林の所有者に対する働きかけも、この事業の一環として行います。放置林の調査を行い、所有者を特定し、文書での連絡や説明会、場合によっては個別訪問なども行いながら、適正な森林整備を促すのです。森林所有者が実施するのが困難な場合で、なおかつダムの上流など公益上重要な森林(森林法のゾーニングの区分でいえば、「水土保全林」にあたる森林)に対して実施されるのが、「森林環境緊急保全事業」です。所有者との話し合いで合意に至れば、森林環境税を使い、県が直接間伐を行います。
森林環境税を使って間伐する場合には、所有者と県の間で協定を結びます。
その中には、森林体験や環境教育などの場として、森林を提供してもらうことなども含まれています。「県民参加の森づくり推進事業」では、県民の方々に実際の森林の様子や林業の現場の状況を知ってもらうことが重要なテーマですが、そうした活動の際に森林を利用させてもらうのです。
また、間伐以降10年間の伐採を制限するといった項目もあります。この事業では40%という強度の間伐を予定しているので、間伐後自然に任せておけば、森林はやがて針葉樹と広葉樹の混交林へと移行していくと考えています。経済林としての効率性は損なわれるかもしれませんが、もともと対象となる森林は、「国土保全」や「水資源の涵養」などの機能が期待されている森林(=水土保全林)です。混交林へと誘導することで、森林は、頻繁に管理を行わなくても安定して公益的機能を発揮できるようになります。
この事業で5年間に間伐を予定している面積は約1500ha。まずは、税を投入してしかるべき森林をチェックし、リストアップする作業を開始しています。

■4.県民の強い期待感は、森林県・高知ならでは。
「地域分権一括法」の施行以来、新しい目的税の制定など、地方税財源確保の取り組みは各地で試みられています。特に森林保全や環境保全のための財源に対しては、平成15年(2003年)7月に、926の市町村でつくる「森林交付税創設促進連盟」が国に要望を提出するなど、全国的にも強い要望があるのがわかります。
高知県の森林環境税は、全国に先駆けての制定・実施となったわけですが、県民の方から税の趣旨に賛同する意見をいただいたり、県外在住の高知県出身者の方からも協力の申し入れがあるなど、非常に好意的な反応があります。
こうした反応が生まれた理由として、ひとつには県民の方々に理解と納得をしていただけるよう、税の制定までの2年間、きちんと手続きを踏んできた、ということがあるでしょう。税の制定までに県民の方々へのアンケート調査やシンポジウムを実施し、議論の過程もオープンにしてきました。また、公平で、しかも「薄く広い」負担での課税が実現したことも大きな要因であると思います。
そして、強く感じるのは、この税に対する期待感です。
前述したように、高知県は森林県です。特に年配の人の中には、かつては暮らしの中で山に親しみ、山と関わってきた経験を持つ人が多い。何かしら山に愛着を感じ、できれば接点を持っていたい、と思う人が多いのです。また、大都市にくらべれば山が身近にあって、自然に、毎日のように山を見ながら暮らしているという生活環境もあるでしょう。普段は特に意識することがなくても、改めて問われれば、目の前に見える山には生き生きしていてほしいと思う。そんな人が多いのだと思います。1996年の大規模な渇水で高知市域でも取水制限が実施された、そのことが記憶に新しい、ということもあるかもしれません。水源としての森林を守ることにも意識的になっているのだと思います。
高知県では、平成7年(1995年)に「木の文化県構想」を掲げました。これは、森林と共に培われた「木の文化」をもう一度見つめなおし、現代の暮らしの中で活かし、将来へ引継いでいこう、という県の基本姿勢を明らかにしたものです。「森林が、高知県にとってかけがえのない財産である」という考え方を明確に示したのです。以来、木を育て、木に親しみ、木を活かしていくための様々な活動に取り組んでいます。こうした森林や木への取り組みが徐々に県民に浸透していたことも、森林環境税を導入するにあたって効果があったと思います。

■5.自分たちの森林を、自分たちで守るために。
高知県の森林を豊かで健全なものにしていくためには、県民の一人ひとりが森林を身近なものとして意識し、森林の問題を自分たちの問題として積極的に考えることが重要になってきますが、そのためには息の長い活動が必要です。
その意味で、今回の税の創設は、新しい財源による事業の直接的な効果と同時に、「税金を支払う」ことで県民の方々の意識を森林に向けてもらうという効果も大いに期待しているところです。
県と森林所有者の方々との間につながりができることも、効果のひとつだと考えています。県の考え方をお話しし、所有者の方々のお話も聞く。その中で、将来へ向けて動き出すことができる。そこが大事だと思っています。たとえば、県が仲立ちをする形で、人出の足りない森林の手入れを森林ボランティアが代行する、そんな新しい森林管理の形が可能になるかもしれません。また、森林環境税を使って、子どもたちが森林に親しむ機会を増やしていきたいと思います。木がどんな環境で育っているのか。木の手入れとはどんなことをするのか。どんな種類の木があって、どんな製品になるのか――。木を育て、それを使うことを身近に感じてもらう。それが大切だと考えています。
「自分たちの山は、森林は、自分たちで守る」。――森林環境税は、高知県の、そうした基本姿勢のあらわれです。国のものさしに合わせるのではなく、高知県に暮らす県民の意思として、「この山は、この森林は、どうあるべきか」ということを考える。そして、それを県の政策に反映していく。この税の創設と運用を通して、そういう仕組みづくりがまたひとつ、生まれたのだと思います。県民の森林への思いをしっかりと受け止めて、最大限の効果をあげられるよう、この貴重な税を使っていきたいと考えています。(談)


森林・林業基本法が制定されて2年あまり。この間、今回の新税創設をはじめ、森林をめぐる状況にも様々な変化が起こりました。しかし、その結果が形となって現れるには多くの時間が必要です。この法律が、日本の林業を好転させ、森林を活性化させるための転換点となりうるのか、神籬編集部では、今後も継続的に見つめていきたいと考えています。