■第27号(2003.4発行) 特集:日本人が森に学ぶこと。

森林・林業基本法は、何をもたらすのか。
市民からの政策提言

特定非営利活動法人「森づくりフォーラム」事務局長 坂井武志(談)


1.森林ボランティアからの政策提言。
2.森林の機能と施業を結ぶ「ゾーニング」という考え方。
3.木求められるゾーニング方法の見直し。
4.「直接支払い制度」で交付の対象が拡大。
5.「直接支払い制度」には可能性も問題点も。
6.木材生産以外の仕事にも「直接支払い」を。
7.開かれた議論で、地域社会、市民の森林を。



森林政策への提言を通して市民運動をつづけているグループがある。特定非営利活動法人「森づくりフォーラム」を母体としてつくられた「森づくり政策市民研究会」だ。2001年に改正・施行された「森林・林業基本法」についても、森づくりにかかわる市民の立場から、政府に向けた具体的な提言を行ってきた。施行からまもなく2年、法改正にともなって、どのような変化がおきているのか。林業の現場に、日本の森林に、どのような影響があるのか、検証する。

■1.森林ボランティアからの政策提言。
森林の問題を本当に考えるなら、現場での活動だけでなく、制度や政策にまで踏み込んで考えなければ――。森林ボランティアとして活動していた私たちが、そうした思いから「森づくり政策市民研究会」を立ち上げたのは、1997年のことでした。
母体となる「森づくりフォーラム」は、全国の森林ボランティア団体をネットワークする特定非営利活動法人(NPO法人)です。独自に活動する森林ボランティアが情報交換を行う組織として1995年にスタートし、2000年にNPO法人の認証を受けました。その後、情報発信や森林ボランティアの人材育成などを行いつつ、森林の抱える問題について議論の場を提供しています。「森づくり政策市民研究会」は、その森づくりフォーラムの、いわばシンクタンク的な役割をする集まりです。
「森づくりフォーラム」に関わる人の多くは、それぞれ異なる組織に所属し、森林ボランティアとして活動しています。その中で、様々な問題に行き当たります。手入れを必要としているのにもかかわらず放置されてしまった森。本格的に手入れをしたくても、作業費はおろか交通費も出ない現実。補助金の仕組みや相続税の問題など、様々な矛盾にも直面します。森で活動する市民の実感として、そうした状況を好転させるためには、制度や政策から変革していかなければならないという思いを強くしたのです。
「森づくり政策市民研究会」には、森林ボランティアの人たち、行政関係者や大学の研究者、林業家などが参加し、議論を積み重ねてきました。森林政策のあり方から、政策を実行する仕組み、財源や補助金の問題、森林の管理と利用の問題など、その内容は多岐にわたっています。それをまとめたのが、過去4回の「森林ボランティア活動に参加する市民からの政策提言」で、行政や関係団体に提出すると同時に記者発表も行って、広く市民にも働きかけてきました。
「第3次提言」として旧林業基本法の改正を踏まえた提言を行ったのが、2000年12月。翌2001年6月に新しい森林・林業基本法が可決・成立し、関連法が改正され、新制度が導入されました。
新法は「森林の多面的な機能の発揮」と「それを支える林業の持続的かつ健全な発展」を法律の目標として掲げており、旧林業基本法が掲げた「林業の振興」から「環境重視」へと、大きく方向転換したといわれています。そうした変化が林業の現場に浸透し、何らかの結果が生まれるまでにはかなりの時間が必要でしょう。まずは、法律や政策の内容を理解し、検討し、現場への影響をはかる作業が必要です。具体例をあげながら、考えてみたいと思います。

■2.森林の機能と施業を結ぶ「ゾーニング」という考え方。
新法に則って森林を扱うときの基礎となるのが、いわゆる「3区分のゾーニング」です。これは、新法の考え方を具現化するために政府が策定した「森林・林業基本計画」の中で定められたもので、個々の森林が持つ機能に応じて森林を3つに区分し、それぞれの機能を最大限に発揮できるように導いていこうというものです。新法の目標である「森林の多面的な機能の発揮」のための制度といえるでしょう。
3区分とは「水土保全林」「森林と人との共生林」「資源の循環利用林」で、それぞれ「水源涵養と山地災害防止を重視する森林」「貴重な自然を保全したり、森林レクリエーションや環境教育の場として活用するための森林」「木材の利用を重視する森林」と定義されています。
ご存知のとおり、機能ごとに森林を区分しようという試みは、旧林業基本法のもとでも行われていました。「森林の公益的機能」にそった区分で、「水源涵養機能」「山地災害防止機能」「生活環境保全機能」「保健文化機能」「木材等生産機能」がそれです。しかし、これらの区分は都道府県の定める「地域森林計画」に示されているだけで、法律上は林業の施業との関連付けはなかったのです(法的な規制が加えられるのは、保安林や国立公園、動植物の特別保護区といった「制限林」として、別に指定されていました。これは、新法のもとでも同様です)。適切な林業の施業を行えば、これら公益的機能も発揮されるとする、いわゆる「予定調和論」の考え方の表れです。
しかし、新法による新しい3区分では、それぞれに「望ましい森林施業」が示されており、森林所有者が作成する「森林施業計画」の認定基準も、これをもとに定められています。
例えば、対象となる森林の52%を占める「水土保全林」は、「高齢級の森林への誘導」「伐採に伴う裸地面積の縮小及び分散」をすることが求められています。そのため、標準伐期より10年以上長い伐期による伐採、皆伐の場合は1伐区を20ha以下にする、などの項目があげられています。また、「森林と人との共生林」では、広葉樹林や天然林を維持・増進することが求められ、原則として択伐で伐採する、としています。「資源の循環利用林」では、施業の集約化・団地化、機械化による効率的な森林整備が求められています。

■3.求められるゾーニング方法の見直し。
新法のゾーニングについて、林業関係者の間では、「望ましい森林の形態、重視すべき施業が明らかになった」「森林の環境的な価値を考える上でも大切」と、好意的に捉える声もある一方で、前述したような施業の原則からはずれなければ、どの区分の森林からも木材の産出ができるため、自分の森林施業の問題として取り組む森林所有者はあまり多くないという実態もあります。
実施方法にも、見直すべき点はあります。ゾーニングは、「林野庁が策定した『全国森林計画』に基づき市町村が都道府県の指導のもとで実施する」という原則ですが、林務担当部署を置く市町村は極めて少なく、実際には都道府県が示した区分をそのまま踏襲する形になった例が多いようです。その際、区分の基準になったのが「所有者の所有権ごとの区画」であったため、地域の森林の特性を見極めた上で機能ごとに大きく区分するというよりは、3区分の森林が、所有者ごとにモザイク状に入り組む複雑なものになってしまっています。ゾーニングに関する情報が森林所有者に十分行き渡っているとはいえないこともあって、何のためのゾーニングか、将来的にどのような影響があるのか、検討を尽くしたうえでの決定とはいえないのが実情のようです。
さらに言えば、地域の意思として、どんな森林にするべきか、その森林とどう関わるのかについて議論を重ね、新法に反映させる必要があったのではないでしょうか。行政と一部の森林所有者だけでなく市民も参加して、地域が主体となったゾーニングをするべきだ、というのが私たちの提言です。たとえば、地域の人々がふれあい、自ら守っていく森、森林所有者と技術者や森林ボランティアが維持する森、プロフェッショナルな森づくりの技術者を軸として守る森、森林環境の保護を中心に捉え、一切の伐採を行わず、地域の人々の伝統的な利用以外は認めない森…など、3区分を基本にしながら、自分たちがどう森林と関わるのかという観点からの、地域独自のゾーニングが生まれてもよいのではないでしょうか。

■4.「直接支払い制度」で交付の対象が拡大。
一方、補助金の交付にも変化がありました。これまで森林所有者にのみ交付されてきた補助金を、所有者以外の施業者も受取れるようにするという、いわゆる「直接支払い制度」の発足です。
現在のところ、この方法で交付されるのは、「造林補助金」と、新たに設けられた「森林整備地域活動支援交付金」(1haあたり1万円)の2種類です。
造林補助金は、森林の区分(単層林、複層林、育成天然林など)や施業の種類(造林、下刈り、枝打ち、除間伐など)によって補助率が決められ、保安林などに指定されていれば伐採制限を補う目的で「査定係数」を乗じ、金額が増える仕組みになっています。
森林所有者が自ら施業を行っている場合、補助金は労働に対する「賃金」代わりになっていました。しかし、現在は地元の森林組合に施業を委託するのが一般的になり、そこで伐りだされた木材を販売しても、木材価格の長期低迷によって、その運搬費さえ出ないのが実情です。つまり、補助金の額を超える整備費用は、そのまま森林所有者の持ち出しとなるのです。
木材の価格が低迷を続ける現在、森林所有者がこうした赤字を自ら補填しながら整備を続けることは非常に困難です。その結果として、全く手入れが行われない「管理放棄森林」が増えるという悪循環が生まれてしまいました。
新たな「直接支払い制度」では、これまで森林所有者だけだった森林施業計画の認定請求資格者(つまり、交付金の受給者)に、森林組合や素材生産業者、NPO法人、個人なども加えられました。「森林所有者との間に、5年以上の森林の施業や経営の委託契約を結ぶ」といった一定の要件を満たせば、意欲と技術のある誰もが補助金の受給者になれるということです。

■5.「直接支払い制度」には可能性も問題点も。
補助金を、実際に施業を行う人々に直接交付するメリットはいくつかあります。まず、管理放棄林に対して、森林組合や森林NPO、森林ボランティア団体などの第三者が自主的に施業を行える可能性が生まれました。作業面積をまとめて効率化を図ることができれば、補助金だけで施業が行える可能性もあります。これまで無償で森林整備を行ってきた森林NPOや森林ボランティアにとっては、活動が広がる要因にもなるでしょう。
しかし、問題点もあります。
まず、申請を行う面積要件として、30ha以上という条件がつけられたこと。小規模の森林所有者を集め、そのそれぞれと委託契約を結ぶとなれば、事務手続きは煩雑になるでしょうし、施業が難しかったり、地形が厳しかったりする森林は後回りにされることが予想され、結局はこれまで整備されてこなかった森林は手付かずのままになる可能性があります。
また、実際問題として、大半の森林は地籍調査が実施されていないため、森林の境界さえわからず、位置と所有者を調べることさえできないという状況もネックになるでしょう。
森林組合は組合員の所有する森林の位置や施業の履歴を把握していますが、それ以外の組織はそうした個人情報を入手することはできません。つまり、意欲はあっても施業計画の作成すら難しいという状況にあるわけです。所有者が代替わりしている場合にも登記簿の変更がされていない例があり、加えて相続者の人数が増えているなど、たとえ施業計画を作成できてもすべての森林所有者と委託契約を結ぶことが難しいなどの問題も想定されます。

■6.木材生産以外の仕事にも「直接支払い」を。
直接支払い制度については、私たちも第1回の「提言」から、その必要性を主張してきました。その中には、「経済活動としての林業に対する補助金」という形から脱却すべきだという考えを盛り込んでいます。
これまでの補助金は、経済活動としての林業を補助することで、結果的に森林の公益性も保たれるという「予定調和論」の考え方で運用されてきました。そのことが、経済的に採算が合わなくなった森林が放棄されるという現状の一因でもあるのです。新法のもとで「森林の多面的機能の重視」がうたわれるならば、経済活動とは関係なく、林業的な仕事も、非林業的な森の手入れも、等しく「森を守る仕事」として展開できる体制が必要だと考えています。実際に新法で、林業は木材生産の効率性を阻害するような、たとえば針広混交林の育成や、多段林、下層木の保護なども求められているのですから。木材生産だけではなく、その地域にふさわしい森を守り、森を創造する仕事についても「賃金」として、国が一定の金額を支払う―、そういうことができる「直接支払い制度」を目指すべきではないでしょうか。
こうした直接支払い制度は、以前から言われ続けている「所有権と管理権・利用権の分離」ということにつながっていくかもしれません。「管理放棄森林」の管理権・利用権が意欲のある林業家や地域の森づくりに取り組む機関などに委託されれば、森林の荒廃という問題にも解決の糸口が見つかるでしょう。そのためには、森林所有者が不安を覚えずに管理と利用を委託できるシステムも必要でしょう。行政など公的な機関が責任をもって所有者と管理者を仲介するというような方法もあるのではないでしょうか。

■7.開かれた議論で、地域社会、市民の森林を。
新しい森林・林業基本法が、森林の環境的な機能を重視する方向へとシフトしたことによって、森林の環境としての役割(水源涵養や地球温暖化防止など)に対して積極的な対策が立てられ、予算が配分されるとすれば、森林の荒廃を食い止める第一歩にはなるでしょう。ただ、環境面を重視するあまり、資源としての木材利用が忘れられてしまうことには危惧を覚えます。日本の森林の4割を占める人工林は、適切に整備し利用することで活性化します。莫大な輸送エネルギーを使って輸入する外材を資源として使うという状況が、国際的に見てもいつまでも続くとは思えませんから、現在の20%に満たない木材自給率を上げることも、大切な論点のひとつです。
一方、「森林の多面的な機能の発揮」を目標に掲げたということは、「森林の機能の受益者が国民全般であること」を暗に位置づけたことになります。政策展開の指針としても、「広く国民の理解と参加を得ること」を掲げています。ただ、実際にどうやって国民参加を実現するのか、その方法は示されてはいません。
私たちが繰り返し政策提言をしてきた理由のひとつに、森林問題を私たち市民の問題として捉えてこなかったという反省があります。それは森林所有者の抱える問題であり、行政が取り組むべき課題と考えてしまっていたためでした。市民が自らの問題として森林政策を議論し、チェックしていく機構を持たなかったことが、結果として森林所有者に過大な責任を負わせ、森林の荒廃や山村の過疎化を招いた一因でもあると考えているのです。
日本は国土の7割近くを森林が占めています。この森林をどうとらえるかは、林業というひとつの産業だけの問題ではなく、あるいは疲弊した農山村の課題でもなく、国全体の問題であり、そこに暮らす市民一人ひとりの問題であるはずです。
今、森づくりフォーラムは、森林所有者と行政と市民という、異なる立場の人々が集まって議論をする「場」を立ち上げようとしています。私たちが、これまでの活動の中で感じてきた問題点は、市民と行政が、あるいは農山村の市民と都市の市民が、思いを、情報を、共有し、共に変えていこうという機運が生まれない限り解決しないということを痛感しているからです。
新しい森林・林業基本法は、まずは理念の明示です。それを具体的にどう運用していくのか。それによって、森林をめぐる状況をいかに改善していけるか、ということは今後の課題です。私たちも、林業の現場と行政と市民を結びながら、時間をかけて議論し、検証し、提言を続けていきたいと考えています。


[特定非営利活動法人 森づくりフォーラム]
1995年創立、2000年1月、特定非営利活動法人設立。「人が森林を必要とし、森林もまた人を必要とする社会をつくる」ことを目的に、全国の人と地域をむすぶネットワークとして活動している。森林政策に関する提言、会報やインターネットによる活動情報の提供、人材育成、講師や指導者の派遣などの事業を展開。こうした活動から生まれた様々な「提言」は、『森の列島(しま)に暮らす』(内山節編著、コモンズ)としてまとめられている。