■第22号(2000.10発行) 特集:日本人が森に学ぶこと。

新しい時代の林業へ―
機械化と高密林内路網がもたらすもの。

東京農業大学教授、東京大学名誉教授 南方 康(談)


1.林業の生産性は、新たな機械化で飛躍的にあがる。
2.価格差を越えて、国際競争力と向上させる努力が必要。
3.機械化を支えるのは、生産体制の確立と濃密な林内路網。
4.林道の区分の明確化を。
5.林道の開設と環境のかかわり
6.林道は単なる搬出施設から社会資本になった。



日本の林業は、これまで、急峻な山林に分け入り、多くの人が手をかけて木を育て、木材を生産してきました。しかし、世の中の情勢が変化して林業経営が厳しい時代を迎えている今、そうした方法の延長線上では解決することが難しい問題が数多く現れているように思います。今回は、生産性やコストの問題を通して、ひとつの産業として林業を見つめ、これから進むべき方向について考えてみたいと思います。

■1.林業の生産性は、新たな機械化で飛躍的にあがる。
日本は、国内で消費する木材の約8割を海外からの輸入に頼っていますが、よく知られているように、その大きな輸入先のひとつが北米大陸です。
北米の木材生産地では大面積皆伐が普通ですが、この木が、直径が50〜60cm以上で、樹高も30m或いはそれ以上と日本に比べてはるかに大きいので、一本の木を伐採しても得られる木材の量が大きく、生産性は我が国より非常に高い状態です。
加えて、その生産性をさらに高めているのが、さまざまな林業機械です。ここでは、立ち木の伐採から枝払いや玉切り作業まで、工程の大半を機械で行っているのです。伐り出した原木は、50トン、60トンクラスの大型トレーラーで運び、大きなプラントで大量に製材し、端材も流れ作業でチップ化されます。従って、労働に従事する人一人あたりの木材生産量すなわち労働生産性(単位はm3/人・日)は、我が国と比べると非常に高いのです。少し古い数字ですが、1985年当時で日本の6倍もありました。
それらの機械は、今日、我が国で「高性能林業機械」と呼ばれているものですが、その多くは一台で複数の作業をすることができます。たとえば、「プロセッサ」には、人間がチェーンソーで伐り倒した木を枝払いし、玉切りし、1ヵ所に集積するなどの機能があります。「ハーベスタ」になると、それらの作業に加えて、さらに倒伐作業も機械がこなします。働く人は、パワーショベルなどの土木作業の機械と同じように運転台からオペレーティングすることで、それらの作業を容易かつ安全に行うことができるのです。
こうした高性能林業機械を使うことで、作業時間は大幅に短縮できます。たとえば、直径30cm程度の木を伐採して丸太にするまでの作業時間を比べると、チェーンソーだけを使った場合には約15〜16分かかっていた作業が、チェーンソーで伐採し、その後の作業に「プロセッサ」を使用した場合は4分以下と、4分の1以下にまで圧縮できるのです。
これは、木を伐倒した後の作業、すなわち重いチェーンソーを持って足場の悪い急な傾斜地を移動しながら枝払いや玉切りをする作業に、普通は作業時間の80%も費やしているためで、これを機械処理することで作業効率は飛躍的にアップするのです。同時に、作業する人の労働負担や危険性が大幅に軽減されることは言うまでもありません。
北米以外にも、機械化によって大きな成果をあげている国はいくつもあります。たとえば、スウェーデンでは、1960年代から徐々に機械化が進められ、高性能林業機械による作業が一般化した1980年代半ばまでに、2.3m3/人・日から、7.2m3/人・日へと、3倍以上の労働生産性のアップを実現しました。最近では、機械化率(チェーンソーに依らずに生産される木材の量の、全生産量に対する比率)が90%を越え、生産性も、15m3/人・日くらいまで増えています。一方、日本はというと、現在、労働生産性が約3.2m3/人・日、機械化率は、まだ統計が示されていないので正確には不明ですが、生産性向上の程度から見ると10%を越えているとは、私には思えません。

■2.価格差を越えて、国際競争力と向上させる努力が必要。
日本の森林は国土の約7割、世界でも有数の森林国だといわれています。年間生長量は約7000万m3にのぼり、国内需要の6割強はまかなえる能力を備えています。ところが、現実には、日本で消費する木材のうち国産材は2割前後しかありません。つまり、自分たちの国の中で森林はどんどん生長しているのに、その3分の1も利用せずに海外の資源に頼っている訳で、大量の木材を消費しているにもかかわらず日本の林業は衰退しているということになっているのです。
今日の日本の林業の不振の原因のひとつが海外の木材との価格差だということは、つとに言われてきました。安価な外材に押されて、国産材が衰退した―――と。たしかに日本は、急峻な地形でもあり、また民有林では一軒あたりの所有面積が小さいこともあって、従来は大型な機械による機械化は難しいといわれてきており、その結果、現在に至るまで、傾斜がきつく道のない斜面を歩いて移動しながら労働強度の高い作業をするという、昔ながらの作業方法が続いています。
チェーンソーの登場で、当初は生産効率が飛躍的に高まりましたが、これも本当の意味での機械化とはいえません。なぜなら、通常5〜6キロもある重いチェーンソーを持って現場まで行き、前述したように山の斜面を移動しながら作業するのでは、結局、人力作業の域を出ないからです。それによってコストダウンができたと感じられたのは、安価な労働力が豊富にあったからにほかなりません。しかし、高度経済成長期を境に賃金は上昇し、作業にかかる人件費は高騰しつづけましたが、生産性の方には目立った向上は見られず、日本の木材の生産現場ではコストプレッシャーが続きました。
他の産業に置き換えてみればわかりやすいのですが、人件費が高騰したときには、機械化や省エネルギー化などの生産方法を改革して生産性を向上させ、あるいは製造コストを引き下げ、人件費の高騰分をできるだけ価格に反映させないような方策がとられるのが通常です。なぜなら、価格が上がれば、商品市場での競争力を下げることにつながるからです。
けれども、木材生産の現場では、目立った改革はなされてきませんでした。その背景には、戦後、長い期間にわたって木材の価格が他の物価よりも高い比率で恒常的に上がってきたことがあります。人件費の高騰を、木材価格の上昇が吸収してくれていたわけです。
ところが、昭和56年以降、木材価格は低迷期に入りました。そのことが、内在していた生産性やコストの問題を顕在化させました。今後、人件費が大きく下がることはないでしょうし、国産材の価格が急騰することも考えにくい。だとすれば、できるだけ生産性を上げ、生産コストを下げることが急務であり、そのための有効な方法のひとつが、高性能林業機械化なのです。
林野庁では高性能林業機械として6機種を指定しています。このうち、フェラーバンチャ、プロセッサ、ハーベスタの3種類は、伐倒、枝払い・玉切りなど、立木を丸太まで処理する機械であり、残りの3機種、グラップル・スキッダ、フォワーダ、タワーヤーダはいずれも運搬機械です。
木材は重くて大型の貨物ですから、昔から消費地まで運ぶのに大半の労働力を費やしていました。そこでこれまでは、森林鉄道や軌道、索道や架線集材装置、あるいはトラックやスキッダなど、機械化された部分の殆どが運搬の機械化であり、そうでないものは立木を伐倒するチェーンソーと下草を刈る刈り払い機しかありませんでした。
しかし、賃金水準の高くなった我が国で生産性を大幅に高めるには、残された木材処理行程の機械化が重要であり、我が国ではプロセッサとハーベスタが経済的に効果を発揮し得る中心的な高性能林業機械ということになります。こうした状況を理解し、これらの機械の効率的利用について関心を集中する必要があります。

■3.機械化を支えるのは、生産体制の確立と濃密な林内路網。
国では、大臣名で高性能林業機械化基本方針を打ち出し(平成3年)、本年さらにそれを時代の推移にあわせて推進する内容の改定がなされたことからもわかるように、機械化の普及促進には色々と新たな方策を講じてきました。流域管理システムやその中の労働力確保支援センターの設置などは大きな柱です。これにより広域的に事業を進める中で、支援センターから高額な高性能林業機械をレンタルで利用できることになり、森林所有者や木材生産事業体にとっては、強力な支援策が整備されたことになります。
この他にも我が国に適する機械の開発に毎年相当額の経費を注いできており、機械化が普及し始めてからすでに十数年を経過しました。しかし残念ながら、スウェーデンに見られた、あの顕著な機械化の効果、すなわち生産性の向上は、我が国には現れてはおりません。
その最大の理由は、経営や生産体制が旧来のままであるために、多くの場合、高額で高性能な機械を使い切るだけの仕事量が確保できずにいるからです。
専業的な林業として自立経営のできない小規模所有者(仮に50ha以下とした場合)の森林面積は1990年に私有林の36%でしたが、10年が経過し、相続などによって所有の分割が進んだ今日では、さらに高い数値になっていることに違いありません。こうした零細規模の森林を個々の所有者ごとに維持管理し利用していくことは、今日では殆ど不可能になっています。このような状態の帰結として、高性能林業機械化の効果を十分に引き出せるだけの仕事量をまとめきれないでいるのです。
従って、零細な森林の経営と計画的な生産ができるような経営体制の組織化と、これを確実に促進するような種々の制度の確立が待たれるところです。このことは単に零細な森林所有者に対してだけではなく、他の多くの山林所有者にも当てはまることで、この点が改善されない限り、優れた機械を開発したとしても効果的な機械化の実を得ることはできません。
次に、こうした機械化を進めるために不可欠な条件のひとつが、林地内に設ける林道網=「林内路網」の整備です。
この場合、最も必要なのは、大がかりな林道ではなく、有効幅員が2mか3m程度、作業用の車両が通れるだけの林道です。その代わり、林地のどこへでも作業用車両が行けるように、できるだけ濃密に、たくさん張り巡らせることが大切です。
車社会に生きる人が道のない山腹を無理なく移動できる距離は、150m〜200m程度だと思わねばなりません。ですから、それ以上歩かなくても済むくらいの密度、具体的な目安の数値としては、1haあたり50m〜70mの路網が必要だと思います。ところが現在は、主な作業道を含めて1haあたり17m程度ですから、集材作業のための歩行距離は、地形の複雑さを考慮すると最大約400mと、相当長い距離を歩かねばならないのです。
林業に従事する人は、昭和35年には約44万人おりましたが、平成7年には8.6万人、平成17年には4.6万人にまで減って、そのときの高齢化指数(全体に対する65歳以上の比率)は31%弱となり、数の減少と老齢化が一層進行すると予想されています。そうなると上記のような歩行距離では、ますます人が山へ入らなくなり、林業の産業としての基本が崩れて行くことになります。森林の隅々まで路網を整備することによってのみ、人や機械類が森林内に入り込むことが可能になり、森林労働の安全性や快適性も向上させ、将来につながる林業の姿を浮かび上がらせることができるのです。

■4.林道の区分の明確化を。
林道にはいくつかの区分があります。最も明快なのが技術区分で、林道規程にある1級(1車線、2車線)、2級、3級の構造区分がこれにあたり、採択される規格の違いに応じて、細部の構造が決められます。これに対して、主に行政上の立場から行われる区分もあります。広域基幹林道、普通林道、大規模林業圏開発林道(いわゆる大規模林道)、ふるさと林道などがそれです。しかし、このように多くの種類があっても、通常は単に「林道」と言われるだけですから、多くの場合、聞く人それぞれがバラバラに「林道」をイメージしているのではないでしょうか。
そこで整理のために、林道の果たす役割から大局的に区分すると、「森林区域内で施業のために開設される林道」と「森林へ到達することを主目的として開設される林道」とに分けることができます。前者は役割がはっきりしていますが、後者は少し複雑です。
森林地帯には昔から道路が少なかったので、奥の方にある森林地域へ到達するための林道は、いくつかの村落を結ぶように開設されるのが普通でした。当然、このような林道には地域住民の生活のための交通が発生し、公道的な性格を帯びることになります。今ある立派な国道や県道のうち、元をただせば林道からスタートした路線は全国到る所にあるのです。大規模林道や広域基幹林道などは、このような公道的性格を多分に持つ林道ですが、公道的な性格があるかどうかは路線が開設される区域内の集落の在り方によります。
今後は、個々の林道を計画する当初から、公道的性格が強い林道とそうでない林道とに明確に区分し、それに応じた構造規格を関連付ければ誤解が少なくなるように思います。

■5.林道の開設と環境のかかわり
こうした様々な林道のうち、規模の大きな林道、特に、緑資源公団の実施する大規模林道は、自然環境とのかかわりで屡々問題視され、公団林道は悪であり、すべて中止すべきだと主張する人がいることを私も承知しております。しかし、公団林道は法律で定められた区域内で、国の打ち出した方針に対して地元も法的に同意して始められる事業です。したがって、林道開設に対する要望が地元に強く残っていて、市町村としても継続の意志を明らかにもっている限り、事業は計画完成まで継続されるのが当然でしょう。
今日、環境問題から発せられる公団林道への批判は大半が動植物の保護に関する問題の提起ですが、「スーパー林道=自然破壊の元」とのキャッチフレーズで、いわゆる「スーパー林道問題」として提起され始めた頃は、工事に伴う山腹斜面破壊の問題が殆どでした。
当時は、そう言われても仕方のない状況にありました。原因は、施工機械の未発達にあると考えています。林道の開設は、昭和30年代の中頃までは殆ど人力作業でした。この時代には全体として工事の処理量が僅かでしたから、工事そのものの存在すら一般の関心を呼ぶことはありませんでした。しかし、ブルドーザを用いる林道工事の機械化が昭和30年代末から始まり、40年に入る頃から経済の発展も手伝って開設路線数も多くなり、機械施工の定着で開設速度も格段に速くなりました。その結果、自ずから林道工事現場の山腹破壊が人目につくようになってきたのでした。
しかし、そうした山腹破壊の原因は、当初はブルドーザしか使える機械がなかったことにあります。ブルドーザは押し出す機能しか持たないため、山腹斜面を切り取った土石を、ひたすら前に押して路面下の谷に捨てることしかできませんでした。しかし、昭和40年代の後半に入って機械の上部を旋回できるバックホーが導入され始めると、前面で掘削した土石を後部に待機するダンプに積みこみ、残土処理場にまで運んで安全に処理することが出来るようになったのです。これを契機に、林道路線下の山腹破壊は根絶したと言える状態になりました。
現在、公団や国では、提起された問題に対して、その解決にある程度の時間をかけて調整し、工事の見直しもするようになっております。技術的に解決できる問題は、このようにしていけば何れも解決できるでしょう。しかし、問題は技術問題を越え大規模林道そのものに対する異なった評価から出される反対意見です。
通常、この種の林道の事業期間は長くなるため、中には地方自治体の首長も何代も代わり、地権者を含む地元の考え方がすっかり変わってしまうことすら有り得るのです。このような場合の解決策は容易には見出せないでしょうが、やはり、私は地元の意向を尊重するのが大切だと考えます。地元に強い要望と熱意が存続していれば、外部の、多くは都市サイドからの価値判断をこれに優先すべきではないと思います。
かつて、ある地元の意見を聞く会合で、大規模林道の開設場所の最も近くに住む人が、ただ一人、道路の完成が袋小路を解消し、災害発生時の避難ルート確保につながるという、住民にとっての必要性を縷々訴えたにもかかわらず、翌朝の新聞にはこの発言だけが一字一句も載らなかったことを目の当たりにして、このような保護活動を行っている人たちに対しては、素直に同調できないでおります。環境問題は極めて大事ですが、地元を生活の基盤にする人々がいることを意識した、バランスのとれた主張であって欲しいと思っております。

■6.林道は単なる搬出施設から社会資本になった。
さて、前述したように、林内に巡らされる路網は、持続的に森林を経営・管理し有効に森林を利用していくためには不可欠な施設ですが、これまでは、木材生産で大きなコスト要因となる木材の運搬費を軽減し、少しでも多くの利益を残すために設けられる、純然たる私経済サポートのための施設だと考えられてきました。その考えに則れば、林道の建設費はユーザーが負担するのが本来の姿ということになりますが、実際には様々な補助が行われています。通常、補助率の最高値は50%ですが、地域や林道の種類によって30%から80%まで様々です。補助を指し引いた残りの建設費は、古くは10%程度を県が、所によってさらに市町村が同程度の補助を追加し、残りは受益者が負担していました。
最近ではしかし、国からの補助の残りは、殆どの場合、都道府県と市町村が負担するようになってきています。その主な原因が、長期にわたる木材価格の下落による林業の不振にあることは間違いありませんが、環境の悪化に対する地球規模の危惧が社会全般に浸透し、環境に与える森林の公益的な役割が認められつつあることから考えると、むしろ当然のことだと言えるでしょう。
森林は、ただ放置するだけでは立派な森林に誘導することも効果的に機能させることもできません。仮にできたとしても150〜200年も待たなければなりません。一旦人手の加わった森林を健全な状態に保ち、公益的機能を持続的に発揮させようとすれば、人が継続的に山に入り、適切に管理し続けなければならないのです。
森林に必要な施業を継続していくためには、どうしても若い世代にその任を担って貰わねばなりませんが、モータリゼーションの中で育った人たちが日常的に長距離の山道を歩行してまで山で仕事をしてくれるとは到底思われません。つまり、それ相応の路網を林内に整備し、不整地の歩行距離を少なくすることが大前提になっているのです。
労働事情の激変によって、林道は私経済における単なる搬出施設から、それらを含む資源の保全と利用に不可欠な社会資本としての性格に変わってきているのです。国庫補助残を地方公共団体が受け持つようになってきたのも、このような背景があるからだと考えられますが、まだ完全に世論の支持を受けてはいないでしょう。林地への到達性や施業のための林道に対する社会資本としての意義づけが、もっと一般によく理解されるよう、今後さらに努力することが必要だと考えています。


[南方 康]
1931年生まれ。東京大学農学部林学科卒業。農学博士。徳島県林務部技師、東京大学農学部助教授、教授を歴任の後、現職。日本林学会賞受賞(1966年)。林道路網計画が専門。1977年に現行林内路網密度式を、85年には複合路網密度式を発表。また論文「林業における作業機械化の可能性(1983年)」で、林業の構造的不採算性、労働力の減少・老齢化に対応するには、高額だが高性能な機械の活用(=高性能林業機械化)が不可欠なことを我が国で初めて発表。
主な著書に、『機械化・路網、生産システム』(日本林業調査会)、『林業土木学』(地球出版)、「総合森林学(共著、論文発表)」など