■第20号(1999.10発行) 特集:日本人が森に学ぶこと。

「バイオマス」が林業を元気にする。

島根大学生物資源科学部 助教授 小池浩一郎(談)


1.「桃太郎」は、未来の物語?!
2.森林に内在するエネルギーが、次代の林業のエネルギーになる。
3.それは、オイルショックを契機に始まった。
4.バイオマスは雇用の固まりである、という結論。
5.オイルショックが転機になったヨーロッパと、そうでなかった日本と。
6.二つのやり方であまねくエネルギーを供給。
7.市民と産業界と行政と。3者の強い意志が、
  バイオマスを燃え上がらせた。

8.熱と電気を同時に考えられるヨーロッパと、そうでない日本と。
9.地域による、地域のための、バイオマスを。



20世紀は、莫大なエネルギー消費のもと、豊かな産業文明を謳歌した世紀でした。一方、石油・石炭・天然ガスといった“化石エネルギー”の過大消費が、地球温暖化をはじめとするさまざまな環境悪化を招いてしまったことも事実です。目前に迫った21世紀に負の遺産を残さないためにも、いま注目されているのが、森林の木材を燃料として利用する『木質系バイオマス(biomass=生物系燃料)』。特にヨーロッパ諸国では、バイオマスは来世紀の主役エネルギーであるとして、化石エネルギーからの転換がすすめられています。今回は、森林国であり、またバイオマス先進国であるスウェーデンのエネルギー事情を見ながら、林業に内在する新たな可能性について考えてみたいと思います。

■1.「桃太郎」は、未来の物語?!
「むかし、むかし、あるところにおじいさんとおばあさんがすんでいました。おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました……。」
おなじみ桃太郎の物語ですが、わたしが考えている、山村地域(都市以外の地域)におけるエネルギー供給の理想形が、ここにはあります。すなわち、「おじいさんは山で柴を刈って燃料とし(バイオマス)、おばあさんは川で小水力発電をしてエネルギーを得る。」
柴、つまり樹木も、水も、山村にふんだんに存在する自然の資源ですから、それを燃料として活用することができるなら、外部からわざわざガスや石油などの化石燃料を買う必要はない。また、エネルギーを自給するためには、燃料源である森林や川の維持管理などといった仕事も必要で、そこから雇用が生まれ、地域経済も活性化する。
さらに、樹木も水も自然のエネルギーであるから、二酸化炭素など温室効果ガス排出の心配もなく、地球環境保全にも貢献できる……。
まさに次世代のエネルギーというわけです。

■2.森林に内在するエネルギーが、次代の林業のエネルギーになる。
考えてみれば昭和30年代までは、日本の森林の20〜30%は薪炭林であり、山村の大半の人は木炭で生計を立てていたわけです。それが、高度経済成長時代、「木炭、石炭はやめて石油を使え」というエネルギー革命が国策的に行われ(世界的に過剰気味だった石油を、アメリカ、イギリスあたりから日本が押し付けられたという見方もありますが)、薪炭林は無用の長物となり、山村地域は経済的に弱ってしまった。
ところがいま再び、森林の木材を次代の新しいエネルギー源としようという動きが活発化しています。それが、『バイオマス』です。
注目すべきは、バイオマスは、循環型社会に最適のエネルギーシステムであるということ。燃焼したときに出る温室効果ガス(二酸化炭素)と同量を樹木自体が吸収するため、正味としてはCOを排出していない「カーボン・ニュートラル(Carbon=炭素、Neutral=中立)」な状態になっているからです。さらに、林業の活性化につながり、雇用の創出をはじめ山村地域経済の復興に貢献するというのも大きな利点です。
森林に内在しているエネルギーを再認識し活用することで、林業の新たなエネルギーを生み出す『バイオマス』――。以下、バイオマス先進国スウェーデンの事例に学んでみたいと思います。

■3.それは、オイルショックを契機に始まった。
「森林(廃棄物)をエネルギー源として使う『木質バイオマス』にスウェーデンが取り組み始めたのは、今から20年前、1980年のこと。1973年と1978年、2度のオイルショックの後のことでした。
もともとスウェーデンでは、“戸別暖房”ではなく、自治体(市役所)が市街地に温水パイプを巡らして各家庭に熱供給をする“地域暖房”が進められてきました。
ところがオイルショックにより重油が不足し、価格も高騰、自治体は市民への暖房供給に大層苦労した。(何しろ寒さの厳しい北欧のこと、冬場の暖房がなくなるということは死活問題です。)そしてこのときの苦い経験から、石油に代わる新しいエネルギーの開発に、自治体ぐるみで本格的に乗り出したわけです。
もちろん、石油代替エネルギーとしてバイオマスに絞られるまでには、紆余曲折がありました。
原子力エネルギーという選択肢もあったのですが、これに関しては、1980年の国民投票で原子力発電からの段階的な撤廃が決められた。(後1990年には原子力発電全廃が決定されました。)故に、原子力には頼れない。
一方、森林国スウェーデンとしては、身近に豊富にある木材資源をみすみす見逃す手はない。
さまざまな観点から議論しつくされた結果、「とにかく、国土にふんだんに存在する森林(の廃材)を活用する『バイオマス』というやつをやってみようじゃないか。」ということになったわけです。

■4.バイオマスは雇用の固まりである、という結論。
さて、バイオマスに乗り出したスウェーデンの結論は、「バイオマスは雇用の固まりである。」
バイオマスの原料――樹木の先端や枝葉の部分は、単価が安い。(バイオマスの原料となる森林廃棄物は、製材や製紙といった産業の、あくまで“副産物”です。)さらに、木を伐る人、運ぶ人、etc.……と人手が必要になる。新たな雇用が生まれ、収益は全部地元に落ちます。
また、スウェーデンのみならず、概して先進国の森林は使われなさすぎなのですが、燃料となって売れるとなると森林の手入れも熱心にされるようになり、結果として森林はどんどん良い状態になっていった。バイオマスは林業の復興、山村地域の活性化をもたらすことがはっきりわかってきたわけです。
こうして、スウェーデンでは、化石燃料はどんどんバイオマスに取って代わられ、現在は国内エネルギー供給源の19%が木質バイオマス、と非常に高い数値を示すに至っています。ちなみに日本では、バイオマスは1%以下、しかもそのほとんどは製紙工場の廃液からのエネルギーです。

■5.オイルショックが転機になったヨーロッパと、そうでなかった日本と。
このように、オイルショックを契機に新エネルギー開発に乗り出し、バイオマスにたどり着いたスウェーデンですが、もちろん日本も、オイルショックの洗礼を受けています。
原油の99.7%を輸入に頼っていた日本にとってオイルショックは大きな衝撃であり、当時は銀座のネオンサインが消えたり……と少々オーバー過ぎる程の騒ぎだったことは、ご記憶の方も多いと思います。そして実はこの時期、石油に代わるエネルギーとして「バイオマス」が取り沙汰されたこともあったのです。
世界に冠たる森林国日本、この頃からバイオマスに取り組んでいればまた違った今日があったかもしれないのですが、数年たって石油の値段が逆に暴落したら、そんなこんなはみな忘れ去られ、バイオマスも雲散霧消してしまった……。
かたやオイルショックの経験を真剣に受けとめたスウェーデンと、そうでなかった日本と――。一昨年、地球温暖化防止京都会議の際、当初は温室効果ガス15%削減(最終的には8%で合意)を打ち出したヨーロッパに対し、日本は6%ですら達成困難という状況だったのは、遡れば20年前に端を発すると言えるかもしれません。

■6.二つのやり方であまねくエネルギーを供給。
スウェーデンでは、バイオマスは次の二つのやり方で利用されています。
ひとつは、市街地など人口集中地域に対して行う『地域熱供給』。かつては重油でやっていた地域熱供給を、木質バイオマスでまかなおうというものです。
具体的には、自治体などが中型のエネルギープラントを設置し、そこで木材を燃やして蒸気ボイラーを稼働させ、各家庭や学校、企業などにつないだパイプラインで暖房給湯する。この際、燃焼エネルギーを“電力”として供給するだけでなく、その余熱を暖房や給湯などの“熱エネルギー”として供給する、「熱電併給」の仕組みをとっており、このおかげでエネルギー効率は飛躍的に上がっています。
もうひとつは、人口集中地域以外の家庭に対して行う『ペレット供給』。「ペレット」とは、おが屑を固めた直系8ミリ程度の円筒形のもの。形状としては、ヤギの糞を連想していただくと良いかもしれません。
郊外の農家など、遠く離れた1軒家のために配管をするのはコストがかさむので、そうした家庭の庭先には戸別に燃料タンクを設置し、1週間に1回程度、専用のトラックがペレットの自動補給に訪問する仕組みになっています。スイッチを押すだけで、トラックからタンクに自動的にペレットが送り込まれ、あとはボイラー(重油用に使っていたものをペレット用に改造したものです)で燃やすだけ。手間要らずの簡単さです。

■7.市民と産業界と行政と。3者の強い意志が、バイオマスを燃え上がらせた。
スウェーデンにおいて短期間でバイオマスが普及したのにはいくつかの要因があります。
第一に、生産者側が日々品質向上に努めていることです。
まず、バイオマスの材料。当初は、製材工場などで出る安価な廃材を主体にスタートし、マーケットが確立したところで、少し単価の高い、山から伐採してきた木材を使うようにしました。もちろん、木を伐り出すにしても、面積当たりの伐採・搬出コストが安い皆伐のものから使い、次に間伐材へ、といったシビアなやり方を採用しています。
二番目に、ノウハウの蓄積。たとえば切り倒した木材を放置する間、雨などがしみ込まないよう、巨大な巻紙をかけて保護する。そうすれば水分がしみ込まないから体積が軽くなり、搬出効率が良くなると同時に、燃料としてのカロリーもアップする。これなども、20年の間に生み出されたノウハウです。また、葉の部分は燃料にはあまり適さないこと、カリウムや窒素などの養分を多く含んでいることなどから、林地に残す、といったこともやっています。
このように、運搬効率、燃料としての品質、そして林地土壌へのインパクト……。総合的な見地からバイオマスを進めているのです。
三番目には、バイオマスの供給側、需要側、そして学者などで構成する「バイオエネルギー協会」が、すでに20年前に発足していたという事実。立場を超えてバイオマスの研究・普及に取り組む人々の固い意志が、今日のスウェーデンをつくったとも言えましょう。
そして四番目に、「炭素税」に代表される、行政の後押し。炭素税は、化石燃料を燃焼した場合に排出する炭素量に対して一定の税金を課すもので、スウェーデンの他ノルウェー、フィンランド、オランダなどでも導入されている税制です。
この炭素税が、地球温暖化の原因であるCO2を排出しない木材にはかからず、結果として化石燃料に比して安価になるというわけです。(ところで、いまやバイオマスは税金を抜きにしても、十分化石燃料に対抗し得る価格にまで下がっています。これは、バイオマス供給側が、税制などのバックアップに甘んじることなく、材料や運搬のコスト抑制に努めるなど、たゆまぬ創意工夫を続けている成果です。)
最後に、スウェーデンでは、バイオマス発電(並びに水力発電)による電気にはエコマークがついており、高く売れる仕組みができあがっていること。環境について努力した企業がきちんと評価される社会の共通認識――土壌ができあがっている点です。
この点では、シェル石油という世界規模の超大手石油資本が、21世紀を見据え、長期計画でバイオマスへの参入に取り組んでいることも、興味深い事実です。

■8.熱と電気を同時に考えられるヨーロッパと、そうでない日本と。
日本の山は急峻だから木を伐り出す労力・コストを多大に要し、従ってバイオマスはあまり期待できない、という意見があります。本当でしょうか?
確かにスウェーデンの山は日本より平坦でありますが、堅い石ころだらけの厳しい地形で、決して搬出コストが安いとは言えません。バイオマス先進国であるオーストリアも、オーストリア・アルプスというくらい勾配が急な山が多い。こうした不利な条件が多々ある中でバイオマスが進められていることを思えば、日本は世界に冠たる森林の国。材料となる樹木の生長もすこぶる良い。できないはずはないと思います。
それよりも、日本におけるバイオマス普及を妨げている大きな原因として、「エネルギー=電力」という固定観念があるように思われます。電気にとらわれていては、バイオマスの実現はかなり困難であると言えます。
なぜなら、現在日本の法律では、自家発電で余った電気は電力会社に売ることが定められているのですが、その買い取り価格に関しては電力会社が自由に設定できる、という仕組み。そして残念ながらいまのところ、電力会社は採算に見合った金額では買い取ってはくれないのです。だから、大きな工場など電力の自家消費が見込めるところ以外は、発電しても採算が合わず、身動きがとれなくなってしまう。
わたしはまず、「地域熱供給」から始めることを提案します。それも、わざわざ発電所を作らずとも、まずはスウェーデンの郊外地区のように、市街地全体ではなく、街区単位のブロックヒーティングで始めれば良いのです。また、日本は夏の暑さも厳しいので、温水だけではなく、夏場の冷水供給事業も効果的ではないか、とは、かのスウェーデンのバイオマス技術者のコメント。夏でも木材をどんどん燃やして地域を冷房すればよいのです。そうやって、システムが軌道に乗ってきたら、発電事業も視野に入れる。その際大切なのは、スウェーデンのように「熱電併給システム」を採用することであるのは、先に述べた通りです。
また、山間地の小中学校や病院、養護老人ホームなどでは、ペレットによる独立した空調、給湯システムを導入することにより、重油・LPガスを使う必要がなくなります。
なお、欧州連合(EU)では現在、発電効率を上げるために、木材を直接燃焼するのではなく、いったんガスにし、ガスタービンと蒸気タービンを併用するというプラントに取り組んでいます。この方法も、将来的には参考になるでしょう。

■9.地域による、地域のための、バイオマスを。
いま国内でのバイオマスの取り組みとしては、岡山県の製材工場が、生産工程で大量に出るカンナくずや木の皮などを燃やして蒸気タービンを回し、工場での電源や熱源に利用しているといった事例があります。
スウェーデンでは、国家主導ではなく、自治体ぐるみ、民間主導でバイオマスを進めてきました。日本でも、森林バイオマスによる地域ぐるみの熱供給システムを構築することで、中央に頼らない、新しい地域社会が築けるかもしれない。そして、そうした地域起爆剤とも言える『バイオマス』活用のリード役が、ほかならぬ林業界であってほしいと思います。


[小池浩一郎]
1952年生まれ。東京大学農学部林学科卒業。スウェーデンなどの木質エネルギー利用を研究。(財)林政総合調査研究所研究員を経て、島根大学生物資源科学部助教授。スウェーデンバイオエネルギー協会会員。NPO「斐伊川くらぶ」理事。