■第9号(1993.10発行) シリーズ建築家@

−木を育て、木と歩む−
日本に木の文化をルネサンスする。

(工学博士・熊本大学客員教授 吉田桂二)


1.「木」は単なる材にあらず
2.伝統工法の架構と間取りルネサンス
3.木の文化を川上から川下まで



木を愛し、木を理解し、木の本当の良さを少しでも多くの住宅に採り入れることによって、我が国の住宅建築の未来を切り拓こうとしている建築家を紹介します。シリーズの第一回目は、木材建築における我が国の第一人者として知られる吉田桂二さんです。

■1.「木」は単なる材にあらず
昔から日本人は木を主材としてつくられた家に暮らしてきました。私達は、主材としての木を単なる物的素材として見るのではなく、いわば体の一部とでもいえるような愛着おもって接してきました。
近頃、住宅メーカーが声高に叫ぶようになった「木造見直し」のスローガンを耳にすると、そのこと自体は歓迎してよいものの、以前から木造を提唱している者からすれば「一度は木を見限った奴等が何を言うか」という憤りをどこかに感じてしまうのですが、私だけでしょうか。しかも時流に便乗した「木造見直し」を口にしながら、実際には日本の風土に適合した住宅とは言いがたい代物だったりすると、かえって悲しくなるばかりです。
ツーバイフォーやログハウスなどにもその類いが多く、最近では在来工法といえども、壁はすべて大壁で柱は見えず、屋根や床の架構も皆天井裏に隠れ、開口部はアルミサッシ,木が見えるのは内装材のみという木を単なる化粧材として使った造りで、一体何が木造礼讃かと思えてしまいます。

■2.伝統工法の架構と間取りルネサンス
柱や梁など木造の架構がそのまま現れている伝統工法の家の良い所は、高温多湿な機構の中でも通風のよさで快適に暮らせる開放的な造りと住み手とともに生活の歴史を刻んでいうことが実感できる、そんな皮膚感覚のある家だということだと思うのです。
又、気候風土に順応した家ということだけでなく、その家屋構造が日本人の精神性の形成に少なくない影響を与えている点も見逃せません。部屋と部屋とがつながりあった開放空間も建具一つで仕切りが可能な独立空間も自由につくることができる融通性を生かし家族の気配を感じあえるので、ふれあいに富んだ暖かい家族生活を理想と考える日本人らしい生活感が生み育てられてきたのです。
「木造見直し」ということを風潮ととらえるのではなく、風土に適した木造、生活の形を支える木造へと思いをめぐらしてゆけば、木と私達の生活との結び目が見えてくるはずです。それが私達の見失いかけている日本文化の特質を形成しているものだとすれば、それを守り、育てることは現代のルネサンスだと言えるのではないでしょうか。

■3.木の文化を川上から川下まで
とはいうものの、木材はその大部分を輸入に頼っているのが現状ですがそれだけでよいはずはありません。
本来家は、その土地で得られる材料で造るのが原則なのです。日本の森林は昔ほど豊かでないとはいえ、今でも世界で有数の木材産地であることに変わりはありません。
しかも、森林にはそれ自体充分な回復力があります。ふた昔までは、柱や土台まで輸入材の米栂に頼っていたものが、今では正角材はほとんど国産材で間に合うようになってきました。経済合理性一辺倒でよその国の自然破壊につながるような乱伐をしても「金を払えばよいだろう」といった排金主義はそろそろ卒業したいものです。
しかし本当の意味で日本を再び林産国にするには、需要者の意識改革が必要です。素木(しらき)礼讃、無節礼讃、数寄屋まがいの精度など、さして本質的でない木造への要求は差し控えるべきでしょう。そんな枝葉末節のことに拘るようになったのは、ごく最近に過ぎないのです。
造林経営、製材、木材流通、建築業など、木の家を提供してゆく側の問題も山積みしています。
国産材の需要喚起、しっかり流通させるルートづくりなど、一朝一夕には困難といえ、取り組んでいかなければならない問題がたくさんあります。そしてそれには行政サイドの理解と協力も必要でしょう。又、「大工さんがいなくなった」と言われますが、それと「国産材がない」と言われるのは、原因がよく似ています。どちらも「ない」のではなく「働かせていない」だけなのです。その原因は大量生産利潤追及のみを目標とする産業構造にあります。あつかいのむつかしい木も熟練の技術が必要な大工さんもそんな産業構造からはスポイルされてしまう。そうした体制にくさびを打ちこむことが今、何よりも必要だと思うのです。


[吉田桂二]
1930年生まれ、東京美術学校(現東京芸術大学)建築学科卒。1957年連合設計社市谷建築事務所を設立し、現在まで主として住宅・公共建築の設計に従事。工学博士、熊本大学客員教授、全国町並み保存連盟副会長、日本ナショナルトラスト保存活用委員。
1991年「飛騨の匠文化館一連の修景計画」で第16回吉田五十八賞特別賞、1992年[古河市歴史博物館と周辺の修景」で同年度日本建築学会賞作品賞受賞。
「家づくりから町づくりへ」(建築資料研究社)、「住まいと町をつなぐ家づくり」(彰国社)他、著書多数