■第5号(1991.9発行) [木の目][木の夢]

蘇る熱帯林、バイオで人工植林
木は鉄よりも強くなる!新素材としての木材を考える




[木の目]
1.蘇る熱帯林、バイオで人工植林


[木の夢]
2.木は鉄よりも強くなる! 新素材としての木材を考える



■1.蘇る熱帯林、バイオで人工植林
世界最大級の熱帯林原木供給地マレーシア・サラワク州。サラワクの熱帯林はこの20年間にその3割以上を失った。
現在のペースで伐採が続けば、あと10年で全滅してしまうという。そのサラワクから、3人の先住民女性が来日し、自治体や商社など森林資源の保護を訴えたのは6月初旬のこと。木材消費量の海外依存度70%、熱帯木材では20年間に渡り世界最大の輸入国であり続ける日本。高まる対日批判の中、年々深刻化する森林資源の減少という国際問題に取り組むためのナショナルプロジェクトがこの夏ようやく発進した。

林野庁に新設される「国際緑化推進センター」は今年の8月、民間企業参加による「森林再生技術研究組合」を発足させた。
これは、地球環境問題に対する国際的課題に応えるため、林野庁が民間企業の持つ活力、技術開発力を海外造林に導入し、大規模な伐採の進むフィリピン、マレーシアなど東南アジアの熱帯林を再生、回復しようという研究プロジェクトだ。
主に対象とするのは、ラワン、アピトン、メラピなど最も植林が難しく、再生は不可能とさえいわれているフタバガキ科の樹木。
それらに対し種子・育種資材、植栽資・器材、肥料・薬剤の3体系で技術開発が進められることになる。
このなかで特に注目されるのは、バイオテクノロジーを駆使した大量増殖技術と成長促進技術の研究であろう。
大量増殖とは、組織培養液を開発して種子の採取が困難なフタバガキ科樹木の苗木を、常に入手可能な状態にするためのもの。
一方、成長促進とは、キノコの菌をフタバガキ科樹木の根に付着させる、菌根菌技術の利用である。
菌根と樹木の共生関係では、赤松とマツタケ菌が典型例として知られているが、森林総合研究所による先頃の調査、実験により、キノコの菌系を付着させたフタバガキ科の樹木の幼木は、菌根を形成する性質が強く、根状菌糸束が形成された樹木は乾燥、高温下にあっても水分や養分の吸収力にすぐれれるため、通常の樹木の2倍以上の速度で成長することが確認されたのだ。
この、キノコ菌系による養分吸収の強化によって、伐採の続く東南アジアの荒廃地でも、人工植林が可能になるといわれている。
世界最大の熱帯木材輸入国・日本が官民共同で、世界最高のバイオテクノロジーを駆使し、再生不可能といわれた熱帯林再生に挑もうというわけだ。
この他にも、三菱商事と横浜国立大学の研究グループが7月から、マレーシア国立農業大学と共同で、フタバガキ科樹木再生の研究を本格化させたほか、森林研究の国際的学会組織である「国際林業研究機関連合(本部ウィーン)」も、来年度からバイオテクノロジーによる人工植林技術の世界的研究協力を始めると発表。
熱帯林回復の国際的な動きが活発化しようとする中、日本の果たす役割は大きなものとなりそうだ。

■2.木は鉄よりも強くなる! 新素材としての木材を考える
昨年、大阪。鶴見緑地で盛大に開かれた「国際花と緑の博覧会」。改めて自然と人間の調和の大切さを教えてくれたこの一大イベントは、今なお記憶に新しい。「花博」には、木材を使った様々なモニュメントや大ドームなどが出展され、鉄骨にはない”木造り”の良さを教えてくれた。また最近では、それを立証するように、木造の工場・倉庫・体育館などが建築されることが多くなるなど、木材が今、新しい工業建築材料としても見直され始めたほか、新素材としての木材の開発も進んでいる。

自社工場・倉庫を木材(集成材)で建築したという大阪の商社は、「木材は鉄骨より軽く、基礎の土木工事が簡単で、大掛かりな機械や人手も不要。鉄骨造りに比べて工期も短く、工費も二割削減できた」という。さらに「夏は涼しく冬は暖かいなど温度が安定しており、木の持つ温もりが人に優しく、非常になじみやすい」と高く評価する。
木材は高分子の結集ともいうべき繊維細胞・セルロースの固まりで組成されており、これが軽量でありながら強度に優れた性質を生み出す。
さらに@結露しないA熱伝導率が低いB比熱が高い――などの特徴があるほか、非常に工作精度が高いことから、特に家屋の建築材料として最適なものとして用いられてきた。
反面、自然が生み出した産物だけに、フシがあって割れやすくなったり、腐りやすいなその性質も合わせ持っており、耐久性のあるいは耐火性の問題を指摘されてきた。
そこで、こうした欠点を克服する技術としてクローズアップされてきたのが、他の素材と組み合わせることにより、木の性質を生かそうという「複合木材」の開発だ。
木片を接着剤で固めて成型したパーティクルボードの表面に、結晶度の高いカーボンファイバー(炭素繊維)を積層するだけで、驚くべき耐火性を生むグラファイト積層ボードもその一例。
摂氏1300度にまで耐えられる炭素材料の特質が生かされ、火災発生時に大きな効果を発揮する。
さらに、電磁波遮断性にも優れていることが確認されている。今後は、コンピューターを設置するインテリジェントビルの、OA機器保全に最適の材料としての需要が考えられるという。
そして、こうした複合材料の中で、現在最も期待されているのが木と鉄との融合だろう。
木材は、ある程度以上荷重がかかると、あっさりと折れてしまう性質を持っている。一方、鉄はじん性に富んでおり、たとえある程度以上の荷重がかかっても、折れずに伸びて(たわんで)いく。
この粘り強い性質の鉄と、木材とを接合して建築用材にすることで、たとえば大地震のときのエネルギー(衝撃)を鉄が吸収して、木材にまったく破損が及ばなくなるということが実験データにより証明されている。
逆に火災時には、熱に弱い鉄は軟化して硬度をなくすが、木と鉄の複合材料にカーボンファイバーを積層しておけば、木材が鉄を保護し軟化を防止する役割を果たす。
このように、木と鉄との組み合わせは、地震や火災などの発生時に大きなフェ―ルセーフ機能が発揮でき、新しい建築材料、工業材料としての需要が期待できる。しかし、木と鉄は、有機質と無機質であり、接合が非常に難しいという課題も残されている。
ベテランの大工さんといえども、現場での施工は労を極める作業だという。
これを克服するには、鉄を木材に内装してコンポジット化するなど、技術面でさらに多くのデータ蓄積が必要。だが、木と鉄がお互いによきパートナーとなり、建築材料などの新素材としての脚光を浴びる日は、科学技術の進歩の著しい今日、決して遠い時期ではないはずだ。

軽 く て 強 い 木

森林総合研究所の実験によると、同重量(25g)試験片を用いた引っ張り強度では、鉄が293kgで破断したのに対し、杉材は1480sであった。
つまり、重さが同じなら、鉄よりも木のほうが強いのである。
一方、同断面積による実験では鉄に軍配が上がっている。
ところが、建築部材としてよく使われるI型鋼と、同等の曲げ強度を持つ材木を杉の木で作ると、断面積は大きくなるものの、重量は鉄の70%程度で済むことも確認された。
実際の建築においては、木は鉄と同強度でしかも軽い住宅を作ることができ、基礎工事が簡単に済む訳だ。
また、耐震性の面でも、木の衝撃吸収力や、柱と梁の局部的破壊吸収力が認められており、過去のアラスカ地震、サンフランシスコ地震で、全壊したのはコンクリート造りの建物で、木造は壊れなかったとも報告されている。
また、欧米では、断面積の大きな木材が燃えにくいことが早くから知らされており、太い木造のサッシが普及している。
日本でも、最近になって大断面の木造構造物や3階建木造住宅が認可になったほか、木造3階建の共同住宅の建築が許可される予定になっているなど、木の強さ、良さが再認識されてきたようだ。